「すごい技術」なのに売れない?『チェイサーゲーム』に学ぶ「第一欲求」という絶対法則
「一生懸命作ったのに、誰も興味を持ってくれない」
「機能は優れているのに、手に取ってもらえない」
クリエイターやマーケターなら、一度はこんな壁にぶつかったことがあるのではないでしょうか。
ゲーム業界のリアルを描いた漫画『チェイサーゲーム』(原作:松山洋)には、この問題を解決する「第一欲求」という重要なキーワードが登場します。
今回は、エンターテインメントにおける「売れるための入り口」である第一欲求について解説します。
主人公の自信作「羊飼いゲーム」はなぜ否定されたのか?

『チェイサーゲーム』の中で、主人公のタツヤを中心とした彼の開発チームが、サイバーコネクトツー代表の松山洋氏に自作のゲームをプレゼンするシーンがあります。
タツヤたちが作ったのは、「プレイヤーが羊飼いの章ねんになって、羊の群れをゴールまで誘導するゲーム」でした。
龍也は松山氏にアルゴリズムやデザイン要素をアピールします。
ゲームコンテストにも優勝したタツヤたちの作品を、松山氏は「よく出来てたよ」と褒めつつも、商品としてリリースされても親族くらいしか買わないと指摘します。
その理由は、松山氏はこう語ります。
赤の他人に『欲しい!』と思ってもらえないとゲームソフトは商品になりえない
この作品には『第一欲求』が無い
『チェイサーゲーム』四巻より
「第一欲求」とは何か?
松山氏が龍也に説いたのが、「第一欲求」の欠落でした。
第一欲求とは、「理屈抜きに、直感的に『やってみたい!』と感じる要素」のことです。劇中の松山氏の言葉を借りると、「『エロ』『グロ』『破壊』『パワー』『スピード』『恐怖』『愛情』といった人間の本能に訴えかける直接的な衝動」を意味した、同氏の造語です。
- 空を自由に飛びたい!
- 悪いやつをボコボコにしたい!
- 魔法を使ってみたい!
これらは、説明されなくても「やりたい」と思える人間の根源的な欲求です。 一方で、「羊を管理したい」という欲求を持っている人は、世界にどれだけいるでしょうか?
どんなにゲームシステムが優れていても、どんなに挙動がリアルでも、入り口となる「やってみたい!(第一欲求)」がなければ、ユーザーはその作品を手に取ることさえしてくれないのです。
ゲームは「100% 情緒的ベネフィット」の商品
これをマーケティングの視点で考えてみましょう。 商品は大きく分けて「機能的ベネフィット(役に立つ価値)」と「情緒的ベネフィット(感情を満たす価値)」を提供します。

- 家電やツール: 「時短になる」「便利」といった機能的ベネフィットが重要。
- ゲーム・エンタメ: 「役に立つ」ことはほぼありません。100%が「楽しい」「ワクワクする」といった情緒的ベネフィットで構成されています。
タツヤたちのゲームは、「ゲームシステム」という「機能的な凄さ(作り手の論理)」ばかりをアピールしていました。しかし、エンタメを求めているユーザーが欲しいのは、「羊飼いのリアルなシミュレーション機能」ではなく、「ワクワクする体験」です。
機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットについて、詳しくは下記の記事もご参照ください。

「第一欲求」を満たすことが、全てのスタートライン
この話は、ゲームに限ったことではありません。
- Web記事: どんなに有益な情報が書いてあっても、タイトル(入り口)で「読みたい!」と思わせなければクリックされません。
- 商品パッケージ: 中身がどんなに美味しくても、パッケージを見て「食べてみたい!」と直感させなければ、カゴには入れられません。
まずは、「パッと見た瞬間に、本能的な『やりたい』『欲しい』を刺激できているか?」。 技術や中身を作り込む前に、この「第一欲求」の確認をすることが、モノを売るための第一歩なのです。
まとめ
- 第一欲求とは、理屈抜きに「やってみたい!」と思わせる直感的な魅力。
- 「技術的に凄い」だけでは、エンタメ商品は売れない。
- 「空を飛びたい」「ヒーローになりたい」といった、人間の根源的な欲求を刺激するコンセプトが必要。
あなたの作っている商品やサービスは、お客様の「第一欲求」を刺激できていますか? もし「羊飼い」になってしまっていたら、一度立ち止まって「お客さんは本当は何になりたいんだろう?」と考えてみてください。


