選択のパラドックスとは何か?~シーナ・アイエンガー『選択の科学』より~
選択のパラドックスとは
選択のパラドックスとは、選択肢の数や特性によって、選択結果が逆転する現象のことを指します。
選択肢が多いことは、喜ばしいことです。しかし、選択肢が多すぎれば選択が難しくなり、結果的に満足度は下がってしまいます。
たとえば、事前に買おうと思っていたものがあったのに、お店に行ってみると種類が多すぎて選べず、結局なにも買わずに帰ってきてしまったという経験は、誰しもあると思います。
これが「選択のパラドックス」です。
選択のパラドックスは、コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授の実験によって、明らかにされました。
ジャムの実験
シーナ・アイエンガー教授が行った実験は、ジャムを使ったものでした。お店の入口近くにジャムの試食コーナーをつくり、24種類のジャムを置いた時と6種類のジャムを置いた時の来店客の動向を比べました。
この結果、24種類のジャムを置いた時には、来店客のうち60%が試食コーナーに立ち寄り、6種類のジャムを置いた時には、40%しか立ち寄らなかったことがわかりました。しかし、この中で購入した人の割合を調べると、6種類のジャムを置いた時の試食客の30%が購入にいたったのに対し、24種類のジャムを置いた時は試食客の3%しか購入しませんでした。この実験で言えることは、豊富な品揃えは集客においては効果がありますが、売上自体は下がってしまうということです。
起こるメカニズム
選択肢が多いことは一見良いことのように思えますが、なぜこのようなマイナスの結果となってしまうのか、メカニズムを見ていきましょう。
情報処理の限界
人間の脳は、処理可能な情報量に限界があります。ある実験では、被験者にさまざまな形を見せて、その後、それらの形を小さな順に並べてもらいました。被験者は、7種類までは正確に順位をつけられましたが、形の種類が7つを超えると正しく順位付けができなくなってしまいました。
これは形だけにとどまらず、音の高低や強弱、におい、味などどの感覚であっても、5つから9つまでしか正しく認識できないという結果が出ています。
私たちは、物事を選択する際に、選択肢を認識し、比較して、評価します。この時、無意識に情報を処理しています。そのため、処理できる量の限界を超えた選択肢があると「選べない」という結論にいたってしまいます。
選択肢の種類や特性の影響
意思決定をする際に、選択のパラドックスは生じます。選択には、選択肢の種類や特性が、影響を与えます。それでは、選択肢の種類や特性がどのように影響するのかについて見ていきましょう。
- 選択肢の質:
高品質なものが選択肢に含まれている場合、その品質の違いが明確であるため、比較検討がしやすくなり、パラドックスが生じにくくなります。たとえば野菜を選ぶ際に、選択肢の中に有機野菜とその他の野菜があるようなものです。 - 選択肢の類似性:
選択肢の類似性が高い場合、比較検討が難しくなり、パラドックスが生じやすくなります。先ほどの野菜の例でいえば、どれも有機野菜で質は高いけれど、つくった農家が異なる野菜が複数ある状態です。 - 選択肢の重要度:
選択肢の重要度が高い場合、比較検討が難しくなり、パラドックスが生じやすくなります。たとえば就職活動で、希望する職種や業界が多数ある場合、その中からどの企業を選ぶべきかは、人生を左右する選択になるため、迷いやすくなります。 - 選択肢の影響度:
選択肢の影響度が大きい場合も、意思決定の重要度が高くなり、パラドックスが生じやすくなります。たとえば医療機器の開発で、どの技術を採用するか選択しなければならない場合、その決断による影響は非常に大きいと考えられます。そういった場合は、比較検討が難しくなります。
マーケティングにおける成功例
選択肢を減らすことで、実際に成功した企業もあります。
たとえば、もともとは26種類あったシャンプーを、売上の少ない11種類の販売をやめ、15種類の販売にすると、売上が10%も上がりました。
品数をあえて少なくすることで、「何を買うか?」という心理的負担を減らし、消費者が商品を購入しやすくします。
選択のパラドックスを回避する方法
選択のパラドックスを回避する方法としては、以下の3点が挙げられます。
- 専門知識を養う
- チームで意思決定を行う
- 決定基準を明確にする
2つ目の「チームで意思決定を行う」は、それぞれの責任を分担することにつながるため、選択のパラドックスが起こりにくくなります。
まとめ
もし営業でなかなか提案が通らないことで悩んでいる方がいれば、もしかすると選択肢が多すぎるのかもしれません。仕事でなくても普段の生活で、物事を決めきれずに行動できないことがあれば、まずは選択肢が多すぎることを疑ってみてください。問題解決の糸口が見えてくるかもしれません。
参考
- シーナ・アイエンガー (著)、櫻井祐子(翻訳)『選択の科学』文藝春秋、2010年