ヒューリスティックとは何か?代表的なヒューリスティックの種類とメリット・デメリットを解説
ヒューリスティックとは
ヒューリスティックとは、問題解決や意思決定において、短時間で結論を導き出すための簡易的な方法や思考法のことを指します。言い換えると、複雑な問題に対して直感的に答えを出す方法です。
人は問題に直面した時や何かを決めなければならない時、慎重に判断して合理的な選択をすると考えられていました。しかし、必ずしもそうではなく、過去の経験や感覚で非合理的な判断をすることが、認知心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによって実証されました。
この直感的に非合理的な判断をしてしまうのは、ヒューリスティックによるバイアスが生じるためです。
代表的なヒューリスティックの種類
ヒューリスティックには様々な種類がありますが、その中でもっとも一般的なヒューリスティックを紹介しましょう。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックとは、ある情報を受け取った時に、典型的なもの(ステレオタイプ)をイメージして判断することです。
たとえば、ある人が医師であるという情報を聞くと、その人を知らないのに「知的で信頼できる人」をイメージして勝手に判断してしまうことがあります。これが代表性ヒューリスティックの1つです。
代表性ヒューリスティックの落とし穴
たとえば、ある人(Aさん)が、企業の営業担当か、図書館員のどちらをしているか、判断するとします。Aさんは、眼鏡をかけていて、大人しく、いつも休憩時間にはミステリー小説を読み、静かな場所を好みます。
この場合、ほとんどの人がAさんは図書館員であると、判断するでしょう。しかし、全国の図書館員と営業社員の数を考慮すれば、確率的には営業社員である可能性の方が高いはずです。このように代表性ヒューリスティックによって、確率を無視した誤った判断をしてしまうことがあります。
利用可能性ヒューリスティック
人には、自分の記憶の中から思い出しやすい情報を重視し、それを基準として判断する傾向があります。これを利用可能性ヒューリスティックと呼びます。
目立つものや、印象に強く残ったことが基準となります。具体的には、婚姻率を考える時に、最近身近で結婚した人が多いと、想起しやすくなるために、婚姻率が高いと判断するといったことがあります。
利用可能性ヒューリスティックの落とし穴
個人的に体験したことや身近な人に聞いた話は、記憶に残りやすく想起がしやすい傾向にあります。たとえば、ある店が口コミサイトで評判が悪いとします。しかし、友人がその店に行った時、「店員さんに丁寧に対応してもらい、とても良い買い物ができた」と話したらどうでしょう。その店を見かける度に思い出すのは、友人の言葉であり、良い印象です。
マスコミ報道も、想起のしやすさに影響を与えます。たとえば、飛行機事故が起こると大々的に報道されます。そうすると、飛行機は「危ない、怖い」という印象が強く残り、しばらく飛行機には乗らないと決めることがあるかもしれません。しかし、車の事故による死亡率が高かったとしても、ほとんどの人が車に乗らない選択はしません。車の事故よりも飛行機事故の方が大きく報道され、またショッキングであることから、印象に強く残るためです。
このように良いことも悪いことも、想起のしやすさで、人は物事を判断することがあるので、事実を見誤らないようにする必要があります。
アンカリング効果
ある数値を見積もる際に、数値を先に提示されると、それを基準にして数値を見積もってしまうことをアンカリング効果(または係留効果)と言います。
アンカーとは錨を意味していて、提示された数値から見積もりを遠く離すことができないため、このように呼ばれています。
アンカリングの落とし穴
「ガンジーは亡くなった時、114歳以上でしたか」と問われた場合と、「ガンジーは亡くなった時、35歳以上でしたか」と問われた時では、前者の方が高い年齢を答えてしまいます。これは、基準となる数値(アンカー)から、離れにくいという心理的な効果があるためです。
実際にやってみるとわかりやすいかもしれません。
紙に線を引いてみましょう。2枚の紙を用意します。
- 1枚目:紙の下辺から5cmのところまで、定規を使わずに直線を引く
- 2枚目:紙の上辺から定規を使わずに直線を引き、下から5cmのところで止める
これをすると、高い確率で1枚目に書いた5cmの方が短くなります。定規を使っておらず、5cmが頭の中では不確実なので、上からスタートした時には上寄りで止め、下からスタートした時には下寄りで線を止めるという、不十分な調整をしてしまいます。
日常的な例を挙げると、「高速道路から一般道に降りる際に、人としゃべりながら運転していると、スピードを出しすぎてしまう」といったことがあります。これも調整が不十分なために、もともと走っていた高速道路の速度寄りにしてしまったと考えられます。
ヒューリスティックのメリット
メリットには下記のような点が挙げられます。
- 迅速性
- 経験則の利用
- 計算量の軽減
ヒューリスティックは、問題解決や意思決定を素早く行うのに役立ちます。また、過去の経験に基づいて問題を解決できます。さらに、多くの情報処理を必要とする場合でも、複雑な計算をせずに問題を解決できるので、時間とコストの節約につながります。
ヒューリスティックのデメリット
デメリットは、罠としても挙げてきましたが、下記の点が挙げられます。
- 誤った判断をする可能性がある
- 新しい状況には対応できない
直感的な決定を行うため、誤った判断をしてしまう場合もあることを知っておく必要があります。また、過去の経験から判断することが多いため、まったく新しい状況になると対応が難しい場合もあるでしょう。
ヒューリスティックの活用例
ヒューリスティックは、マーケティングにも広く活用されています。スーパーなどでよく「お一人様何個まで」という数量制限があります。たとえば、「5個まで」と書かれていた場合と個数制限がない場合では、「5個まで」と書く方が数多く売れます。これはアンカリング効果を狙った手法の1つです。
まとめ
ヒューリスティックを使った判断は、場合によっては非常に効果的であり、合っていることも多いです。しかし、人生を左右するような重大な局面での判断が必要な場合は、ヒューリスティックによって誤った回答が出ていないか、自分自身で慎重に見極め、確かめる必要があるでしょう。
参考
- ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(翻訳)『ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?〈上〉』早川書房、2012年
- シーナ・アイエンガー(著)、櫻井祐子(翻訳)『選択の科学』文藝春秋、2010年
- マッテオ・モッテルリーニ(著)、泉典子(翻訳)『経済は感情で動く : はじめての行動経済学』紀伊國屋書店、2008年