ノミとコップの寓話と水槽の中のカマスの寓話 ~学習性無力感のたとえ話~
今回の学習性無力感に関する寓話は動画でも解説していますので、ぜひご覧ください。
セミナーで知ったノミの話
先日とある練馬区のセミナーで心に残る話を聞いたので、記事にします。
その話は「ノミとコップ」というものです。
2mmほどの大きさのノミのジャンプ力は30cmほどで、自分の体長の150倍もジャンプできるという計算になります。
現代の30代の男性の平均身長が171.5cm、女性が158.3cmですので、人間がノミの跳躍力を持てば、男性は257m、女性は237m近く跳べることになります。
きっと物理的な問題でノミが人間の大きさであっても計算通りの跳躍力は得られないのでしょうが、ノミのジャンプ力を物語る話ですね。
ノミを使った実験 ~ノミとコップ~
コップに閉じ込められたノミ
さて、このノミを小さなコップに入れたらどうなるでしょうか?
当然ジャンプしてすぐ外に出て行ってしまいます。
では、コップにガラスの蓋をしたらどうなるでしょうか?
ノミから見れば空が見えるので、思い切ってジャンプするのですが、蓋に遮られて落ちてしまいます。
何度かジャンプするものの、その度にガラスの蓋に遮られ、外には出られません。
痛いし外に出られない。ノミも何度かジャンプするものの、次第次第にジャンプ力を弱め、いつしかガラスの蓋に当たらない程度にしか跳ばなくなります。
蓋を外したノミはどうするか?
では、ガラスの蓋を外したらどうなるでしょうか?
ノミは嬉々として外に跳び出していくでしょうか?
実はそうはならず、ガラスの蓋が外れても、ノミはコップの高さまでしか跳ばないままです。
これはコップから出しても同じままです。コップから出たとしてもノミはコップの高さまでしかジャンプしようとしません。
ガラスの蓋に体をぶつけ、痛い思いをしたことをノミが覚えているからです。
ノミが再び高くジャンプするには?
跳ばなくなったノミを、再び体長の150倍もジャンプさせるにはどうすればよいのでしょうか?
それは高くジャンプするノミと一緒に過ごさせることです。
高くジャンプするノミを見て、跳ばなくなったノミも高く跳べることを思い出し、ガラスの蓋の高さ以上に跳び跳ねるようになるようです。
学習性無力感
このノミとコップの話はネットでも色々と紹介されているのですが、肝心の出所は明らかにされておりません。
科学的にこうしたノミの実験をしたというよりも、寓話的に、もののたとえとして作られた話のように思えます。
その証拠に、とくに教訓を書かずとも、誰もがノミの気持ちになれるはずです。日々組織で働く私たちも、ガラスの蓋をされていると感じることがあります。
入社したての新卒社員の時は会社を良くしようというエネルギーに満ちていても、社内の様々なしがらみによって何もできず、結局指示待ち族になってしまうというのはよくある話です。
ノミとコップのノミのように、自分では制御できない悪い刺激を与えられることによってその後の行動が変わることを「学習性無力感」と呼びます。学習性無力感を発見した心理学者のマーティン・セリグマン(Martin Seligman)は、うつ病の研究の一環としてこれを発見しました。
マーティンはノミではなく、犬に電気ショックを与える実験で学習性無力感を発見しましたが、物理的な刺激ではなく、感情的な刺激であっても学習性無力感は現れることが今日では明らかになっています。
誰をバスに乗せるか?
このノミの話を聞いて、マネジメントの名著『ビジョナリー・カンパニー2』に出てくる、「誰をバスに乗せるか」という言葉を思い出しました。何よりも一緒に働くスタッフが大切だということを説いています。
いいスタッフに恵まれていれば、たとえ跳び方を忘れてしまっても、再び大きく跳躍することができます。
一方、悪いスタッフに囲まれていれば、そのスタッフが他者のガラスの蓋になってしまうかもしれません。
水槽の中のカマス
このノミとコップの話と同じような内容で「水槽の中のカマス」という寓話があります。この話では水槽を透明の壁で仕切り、片方に魚のカマスを、もう一方に餌を入れます。
カマスは最初透明の壁に気づかずに餌を食べに行こうとするのですが、壁に阻まれてしまい、次第に餌を採りに行かなくなります。そして、仕切りの壁を取り払っても、カマスは餌のところに行くことはなくなってしまうという話です。
水槽の中のカマスの寓話もノミとコップと同じく、学習性無力感のたとえ話として使えます。