VUCA(あるいはVUCAフレームワーク)とは、組織が意思決定や、計画、リスク管理、変革の推進、そして問題解決を行う際に直面する状況と課題を明確に示した概念(ツール)です[1]https://en.wikipedia.org/wiki/VUCA 2025年10月10日確認。
VUCAは4つの要素から成り立っています。
- V =Volatility(変動性):変化の急速かつ予測不可能な性質
- U =Uncertainty(不確実性):出来事や問題の予測不可能性
- C =Complexity(複雑性):因果関係の不明確さ
- A =Ambiguity(曖昧さ):混乱したメッセージから生じる不明確な現実と潜在的な誤解
このVUCAは不確実性の高い現代を読み解く上で重要なアイデアになっています。
そのため、中小企業診断士などのビジネス資格においても問われても不思議ではないキーワードでもあります。
今回はこのVUCAという概念を、その起源から解説し、資格試験にどのように出題されるのかを予想していきます。
VUCAの起源 ~軍事用語としての誕生~
まずはVUCAの起源を確認していきましょう。
VUCAという概念は、1987年に米陸軍大学校(U.S. Army War College)によって、冷戦終結後の戦略的状況を記述するために導入されました。
それまで、世界情勢というのは「アメリカ合衆国 vs ソビエト連邦」という二つの大国の対立が軸であり、「これからどうなるか」については比較的予測可能でした。
しかし、冷戦が終結すると、二極体制の世界秩序から、より複雑で多国間が絡み合い、予測が困難な環境へと移行していきました。
予測がしやすい環境では、トップダウンの組織運営が有効ですが、予測が困難になると組織運営の方法も変化させていかなければなりません。
そうした中で、米陸軍大学校は、新たな戦略環境を表現するために、経営学者のウォーレン・ベニスとバート・ナヌスのリーダーシップ理論、特に彼らの著書『Leaders: The Strategies for Taking Charge』から着想を得て、VUCAという概念を創り出しました[2]https://en.wikipedia.org/wiki/VUCA 2025年10月10日確認。
VUCAを構成する4要素の詳細解説
VUCAは、現代の予測困難な状況を構成する4つの異なる要素の頭文字を取ったものです。
ここからは、その4つの要素を詳しく見ていきましょう[3]以下の記述はhttps://www.airuniversity.af.edu/Portals/10/CMSA/documents/ReadAheads/PBS401A-Developing-Leaders-in-a-VUCA-Environent.pdf(2025年10月10日確認)を参考に作成。。
Volatility(変動性)
変動性とは、変化の性質、速度、量、規模が予測不可能なパターンで、そして短期間に変化する状況を意味します。
ビジネスにおける具体例としては、AIのような技術の指数関数的な進化、Z世代に代表される消費者の価値観やニーズの急激な変化 、そして新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期に見られた株価の暴落とその後の急回復といった、激しい市場の乱高下が挙げられます。
変動性の高い環境では、変化を迅速に察知し、的確な判断を素早く下せるかどうかが、組織の存続を左右します。
Uncertainty(不確実性)
不確実性とは、過去の出来事やデータが将来の成果を予測するための信頼できる指標とならず、次に何が起こるかを予測できない状況を指します。
ビジネスでは、新型コロナウイルスのような世界的なパンデミックの発生そのもの 、ウクライナ危機がエネルギー価格や穀物価格に与えた影響のような地政学的紛争 、気候変動がもたらす異常気象のリスク 、そして日本における終身雇用制度の崩壊といった、キャリアパスの前提が覆される状況などが挙げられます。
不確実性の下では、完璧な情報を待って意思決定を行うことは不可能であり、限られた情報の中でリスクを取りながら前進する能力が求められます。
Complexity(複雑性)
複雑性とは、無数の要素が相互に絡み合っており、単純な因果関係を見出すことが困難な状況を指します。
つまり、考えなければならない要素が多すぎて、傾向を見いだせない状況です。
ビジネスにおける具体例としては、ある一国での部品供給の途絶が世界中の生産ラインを停止させる可能性があるグローバル・サプライチェーンの構造 、海外展開の際に考慮すべき各国の法規制、文化、商習慣の違い 、そしてSNSの普及によって氾濫する膨大な情報の中から本質を見抜くことの難しさなどが挙げられます。
複雑な問題に対しては、単一の万能な解決策は存在せず、多角的な視点からシステム全体を捉え、相互作用を理解しようと努めるアプローチが必要となります。
Ambiguity(曖昧性)
曖昧性とは、因果関係そのものが不明瞭で、前例が存在しない「未知の未知(unknown unknowns)」に直面する状況を指します。
たとえば、「5日後に屋外イベントを開催する予定だけれども、雨が降るかもしれない」というリスクは「既知の未知」と呼ばれます。「そういうことは過去にあったけど、起こるかどうかはわからない」というリスクです。
それに対して、「未知の未知」は「そもそも何が起こるかわからない」というリスクです。
これも、新型コロナウイルスの流行などが代表例です。
ビジネスにおける例としては、なぜそのビジネスモデルが成功したのか、その要因を明確に特定することが困難な破壊的イノベーションの出現や、過去に成功した戦略を新たな問題に適用しようとしても、文脈が根本的に異なるために全く機能しないといった状況が挙げられます。
曖昧な状況下では、分析や予測に頼るのではなく、実験と学習を通じて、行動しながら答えを見つけ出していく姿勢が不可欠となる。
ビジネス界への適用
ボブ・ヨハンセンの貢献
VUCAという概念が軍事領域からビジネスの世界へと橋渡しされる上で、重要な役割を果たしたのが、アメリカの未来研究所(Institute for the Future, IFTF)の特別フェローであるボブ・ヨハンセン(Bob Johansen)です。
彼は、VUCAを現代のリーダーが直面する根源的な挑戦と位置づけ、その概念をビジネスリーダー向けに翻訳し、普及させました。
ヨハンセンの著書『未来を創るリーダー10のスキル 不確実性の時代を生き抜く新たな人材の条件(Leaders Make the Future: Ten New Leadership Skills for an Uncertain World)』は、VUCAを環境を読み解く上でのキーワードというだけではなく、新たなリーダーシップのあり方を定義するための出発点として提示しました。
この著作を通じて、VUCAはビジネス界において、戦略策定や人材育成の文脈で語られるべき重要な概念として認識されるようになりました。
世界経済フォーラムで認知が高まる
VUCAが世界的なビジネス用語として確固たる地位を築く決定的な契機となったのが、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)です。
この会議で「VUCAワールド」という表現が用いられたことで、グローバルな経営層の間で一気に認知が広まりました[4]https://mba.globis.ac.jp/careernote/1046.html 2025年10月10日確認 。
軍事機関がVUCAを世界の新たな状態を「記述」するための診断ツールとして用いたのに対し、ヨハンセンの功績は、それをリーダーシップ開発や組織変革のための「処方箋」の基盤へと転換させた点にあります。
ヨハンセンは「世界がVUCAである」と述べるだけでなく、「もし世界がVUCAであるならば、リーダーはどのような存在であるべきか?」という問いを立てました。
そして、この問いこそが、VUCAを単なる環境認識から、戦略的対応を促すフレームワークへと昇華させました。
VUCAへの対抗策:VUCAプライム
ボブ・ヨハンセンは、VUCAがもたらす4つの課題に直接対抗するためのリーダーシップ行動モデルとして「VUCAプライム(VUCA Prime)」を提唱しました。
VUCAプライムの各要素は、VUCAの各要素に対する行動的な「解毒剤」として機能するよう設計されています。
VUCAの各要素に対する対抗方法をまとめると、以下のようになります。
- Volatility(変動性)に対するVision(ビジョン)
- Uncertainty(不確実性)に対するUnderstanding(理解)
- Complexity(複雑性)に対するClarity(明快さ)
- Ambiguity(曖昧性)に対するAgility(機敏性)
つまり、変動性に対しては明確なビジョンを持つことで、行動指針を確立し、不確実性に対しては理解力を高めて取り組み、複雑性に対しては、最も重要な要素に注目するという明快さを持ち、曖昧性に対しては機敏さをもって対応することが大切であると説いています。
予想問題
以上のようなVUCAの性質を踏まえ、VUCAが中小企業診断士の企業経営理論などの試験にでた場合の問題を予想しました[5]今回の問題はGeminiを使用して作成しました。。
VUCAと呼ばれる、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高まる現代の経営環境において、ある老舗の中小製造業が持続的成長を目指すための戦略として、最も適切なものはどれか。
ア.過去数十年の成功体験に基づき、品質とコスト効率を極限まで追求する既存事業のオペレーション改善に経営資源を集中させる。
イ.市場の不確実性に対応するため、次期5カ年経営計画の策定を一時中断し、市場動向が明確になるまで現状維持の方針を徹底する。
ウ.明確なビジョンを全社で共有しつつ、部門横断的な小規模チームを編成して、市場のフィードバックを迅速に反映できる新製品のプロトタイピングを奨励する。
エ.グローバル市場の複雑性に対処するため、海外事業から完全に撤退し、国内のニッチ市場に特化することでリスクを最小化する。
解説
正解:ウ
今回の選択肢の各要素はVUCAプライムの原則と直接的に対応しています。
以下、各選択肢を詳しく見てきましょう。
- 選択肢アの分析: この選択肢は、過去の成功体験への固執を示しています。VUCA環境、特に曖昧性(Ambiguity)が高い状況では、過去の成功要因と現在の環境との因果関係が失われている可能性が高いです。既存事業の効率化(オペレーショナル・エクセレンス)のみに固執することは、市場の根本的な変化を見逃し、組織を硬直化させる危険な戦略であるため、誤りの選択肢と言えます。
- 選択肢イの分析:この選択肢は、不確実性に対する典型的な「思考停止」のアプローチです。市場動向が明確になるのを待つという受動的な姿勢は、VUCA時代においては致命的となり得ます。なぜなら、より機敏な競合他社がその間に市場機会を掴んでしまうからです。VUCA環境では、行動を停止して観察するのではなく、行動を通じて学習し、積極的に未来を形成していくことが大切です。
- 選択肢ウの分析:この選択肢は、VUCA環境に対応するための現代的な戦略アプローチの要点を的確に捉えています。「明確なビジョンを全社で共有しつつ」という部分は、変動性(Volatility)に対して組織の進むべき方向を指し示すビジョン(Vision)の重要性を示しています。次に、「部門横断的な小規模チームを編成」し、「市場のフィードバックを迅速に反映できる新製品のプロトタイピングを奨励する」という部分は、曖昧性(Ambiguity)と不確実性(Uncertainty)に対処するための機敏性(Agility)と理解(Understanding)を体現しています。
- 選択肢エの分析: リスクの最小化は重要であるが、複雑性(Complexity)から完全に撤退することは、成長機会の放棄を意味する場合が多いです。グローバル市場の複雑性は、回避するだけでなく、それを理解し、管理することで新たな競争優位の源泉となり得ます。この選択肢は、戦略的選択肢を過度に単純化し、リスク回避に偏りすぎているため、積極的に正解の選択肢だとは言えません。
この問題は、受験者がVUCAという環境認識に基づき、従来の静的・計画的な経営パラダイム(選択肢ア、イ、エ)と、現代に求められる動的・適応的な経営パラダイム(選択肢ウ)を明確に区別できるかを試しています。
正解を導き出すには、VUCAが従来の経営の前提条件をいかに無効化するかを理解し、それに対応するための新しい原則、すなわちビジョン主導かつアジャイルな実行の重要性を認識していることが必要です。
まとめ
VUCAという概念は、現代社会が直面する予測困難な状況を理解するための強力なレンズです。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性という4つの要素は、私たちのビジネス環境がいかに急速に、そして根源的に変化しているかを明確に示しています。
冷戦後の軍事用語として誕生し、ボブ・ヨハンセンの貢献や世界経済フォーラムでの認知を経て、VUCAは今やビジネス戦略、リーダーシップ開発、組織変革において不可欠な視点となりました。そして、VUCAプライムが示すように、それぞれの課題に対して明確なビジョン、深い理解、明快な方針、そして機敏な行動が求められています。
資格試験で問われるのも、単なる用語の暗記ではなく、「VUCA環境下でどのような意思決定や行動が求められるか」という本質的な理解です。この概念を深く学ぶことで、あなたは変化の激しい時代を生き抜くための洞察力と、組織を導くための新たなリーダーシップを発揮できるようになるでしょう。
VUCAの時代は挑戦に満ちていますが、同時に新たな成長とイノベーションの機会も秘めています。このフレームワークを理解し活用することで、不確実な未来を自ら切り拓いていきましょう。
注
↑1, ↑2 | https://en.wikipedia.org/wiki/VUCA 2025年10月10日確認 |
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↑3 | 以下の記述はhttps://www.airuniversity.af.edu/Portals/10/CMSA/documents/ReadAheads/PBS401A-Developing-Leaders-in-a-VUCA-Environent.pdf(2025年10月10日確認)を参考に作成。 |
↑4 | https://mba.globis.ac.jp/careernote/1046.html 2025年10月10日確認 |
↑5 | 今回の問題はGeminiを使用して作成しました。 |