「人も資源である」という言葉の冷たさと真実
「プロジェクトのメンバー(人)も、仕事のための資源である」
このように表現されると、人間をまるで機械や部品のように扱っているようで、少し冷たい響きを感じるかもしれません。
事実、これまでのPMBOKの歴史の中でも「人の扱い」については議論がありました。前回のPMBOK第7版では、人的資源の管理は「チーム・パフォーマンス領域」として独立してまとめられており、逆に「資源管理(モノの管理)」というアイデアは少し後退していました。
しかし、今回のPMBOK第8版では、再びこれらが統合され、「資源パフォーマンス領域」として復活しています。
人がいなければプロジェクトは動きません。プロジェクトの成否を分ける最も重要な構成要素であるという意味で、「人も資源である」というのは紛れもない事実です。
しかし、第8版は決して人をモノ扱いしているわけではありません。今回は、資源パフォーマンス領域に定義された「5つのプロセス」を読み解きながら、PMBOKが人とモノをどのように区別してマネジメントしようとしているのかを解説します[1]Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 … Continue reading。
資源パフォーマンス領域を構成する5つのプロセス
プロジェクトにおいて、必要な資源(人とモノ)を計画し、獲得し、活用するために、PMBOK第8版では以下の5つの主要なプロセスが定義されています。
資源マネジメントの計画
物理的・バーチャル資源(モノ)、またはチーム資源(人)をどのように見積もり、獲得し、活用するかを定義するプロセスです。
プロジェクトの特性(予測型か適応型かなど)に合わせて、管理の厳密さやアプローチをあらかじめルールとして確立しておきます。
資源の見積り
プロジェクトの活動を実行するために必要なチーム資源、および物理的・バーチャル資源の種類と「数量」を明らかにするプロセスです。
必要な量とスキルを事前に見積もることで、将来の不足を防ぎ、スケジュールを現実的なものにします。
資源の獲得
見積もりに基づき、プロジェクト作業の完了に不可欠なチームメンバーや設備、環境を実際に獲得するプロセスです。
ここで重要になるのが、社内の「資源マネジャー」との交渉や、外部からの調達活動です。ここでいかに良好な関係を保ち、ネゴシエーションを成功させるかが、プロジェクトの命運を握ります。
チームのリード
メンバーへのフィードバック、協働の促進、意見の対立(コンフリクト)の解消などを通して、パフォーマンスを向上させ、目標達成に向けてチームを導き育成するプロセスです。
この「チームのリード」の活動は、「人的資源」に特化したプロセスです。
資源の監視・コントロール
プロジェクトに割り当てられた物理的またはバーチャル資源が、計画通りに利用可能であるかを確認するプロセスです。資源の使用量を監視し、必要に応じて是正処置を取ります。
この「資源の監視・コントロール」の活動は、「物理・バーチャル資源(モノ)」に特化したプロセスです。
管理の分岐点:人には「リード」、モノには「コントロール」
この5つのプロセスの流れを見て、お気づきになったでしょうか。
計画(①)から獲得(③)までは、人とモノは同じプロセスの中で扱われています。しかし、実際にプロジェクトが走り出し、資源を活用する段階になると、「人」と「モノ」で明確にプロセスが分岐しているのです。
- モノ(設備・資材・IT環境): 「資源の監視・コントロール」プロセスで管理されます。
- 人(チーム): 「チームのリード」プロセスで管理されます。
もし人が単なる部品であれば、モノと同じように「監視・コントロール」プロセスで一元管理すれば済むはずです。しかし、PMBOK第8版はそれを明確に分け、「チームのリード(Lead the Team)」という概念を復活させました。
「チームのリード」プロセスが意味するもの
なぜプロセスを分ける必要があったのでしょうか。
それは、「人は『導入して終わり』の設備や備品とは全く異なるから」です。

サーバーやソフトウェアのライセンス(バーチャル資源)であれば、予算をかけて調達し、プロジェクトに導入した時点でその役割はほぼ完了します。あとは計画通りに稼働しているかを「監視(モニター)」し、無駄があれば「統制(コントロール)」すれば済みます。
しかし、人間は違います。
優秀なエンジニアをプロジェクトに「獲得(アサイン)」できたとしても、彼らが最初から100%のパフォーマンスを発揮してくれるとは限りません。モチベーションが落ちることもあれば、メンバー同士で意見が対立(コンフリクト)することもありますし、プロジェクトの目的を見失うこともあります。
だからこそ、人に対しては単なる監視ではなく、「フィードバックを与え、協働を促し、育成し、導く(リードする)」という泥臭い働きかけが継続的に必要になるのです。
まとめ:人を「資源」として活かすのはPMの振る舞い次第
「人も仕事のための資源である」という事実は、決して冷たいものではありません。
むしろ、人がプロジェクトにとって最も流動的で、最もポテンシャルを秘めた重要な資源であるからこそ、モノと同じ「コントロール」の枠組みには収まらないのだとPMBOKは教えてくれています。
チームに対してどのように接していくか(リードしていくか)は、プロジェクトの成否を分ける最大の要素です。
もし今、チームのパフォーマンスが上がらないと悩んでいるなら、メンバーをモノのように「コントロール」しようとしていないか、一度立ち止まって考えてみてください。「監視」から「リード」へとアプローチを変えるだけで、プロジェクトの空気は大きく前進し始めるはずです。
注
| ↑1 | Project Management Institute『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第8版』日本語版、第2部 2.6.2「プロセス」(80〜88ページ)より要約・引用。 |
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