以前の記事では、プロジェクトを進めるための「3つの開発アプローチ(予測型・適応型・ハイブリッド型)」について解説しました。
では、いざ自分がプロマネとしてプロジェクトを任されたとき、「今回はどのアプローチを採用すべきか?」をどのように判断すればよいのでしょうか。
「最近はアジャイル(適応型)が流行っているから」「うちの会社はずっとウォーターフォール(予測型)だから」といった理由で選ぶのは非常に危険です。
PMBOK第8版の「Section 4.3 開発アプローチ選択のための考慮事項」では、アプローチを決めるための判断基準を「成果物」「プロジェクト」「組織」という3つのカテゴリーに分けて解説しています[1]出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, … Continue reading。
1. 「成果物」の性質から判断する

作ろうとしているモノ(プロダクトやサービス)自体の性質によって、向き不向きが変わります。
- 要件の確実性と変更の容易さ:
「最初に決めた仕様から変わることはない」「後から変更すると莫大なコストがかかる」もの(例:橋の建設、基幹システムの移行)は予測型(ウォーターフォール)が向いています。
逆に、作ってみないと正解がわからないもの(例:新規Webサービス)は適応型(アジャイル)が向いています。 - 規制と安全要件:
医療機器や金融システムなど、厳しい法規制や安全基準をクリアしなければならない成果物は、事前に綿密な計画と文書化が求められるため、予測型の比重が高くなります。 - イノベーションの度合い:
革新的なアイデアを形にする場合、頻繁なフィードバックを受けながら方向修正していく適応型が適しています。
2. 「プロジェクト」の特性から判断する

プロジェクトを取り巻く状況や、チームの特性も重要な判断基準になります。
- 規模と複雑さ:
小規模で不確実なプロジェクトは適応型でフットワーク軽く進められますが、超大規模で多くのシステムが複雑に絡み合う(相互依存関係が強い)プロジェクトは、全体を統制するために予測型やハイブリッド型が必要になります。 - スケジュールの制約と資金:
「絶対にこの日までに完成させなければならない」という厳しい制約がある場合や、段階的な資金調達が必要な場合は、アプローチの選び方に影響を与えます。 - チームの経験とスキル:
【要注意!】 適応型(アジャイル)は自己組織化されたチームが前提となるため、メンバーに高いスキルと経験が求められます。経験の浅いメンバーが多い場合は、手順が明確な予測型の方が安全なケースもあります。
3. 「組織」の環境から判断する

意外と見落としがちなのが、プロジェクトを実行する「会社(組織)」の文化や構造です。
- 組織構造と文化:
「計画通りに進むこと」を良しとし、厳格な階層構造(ハンコ文化)を持つ組織で、いきなり適応型(アジャイル)を導入しようとしても、拒絶反応が起きて失敗します。まずは予測型をベースにしつつ、部分的に適応型を取り入れるハイブリッド型から始めるのが現実的です。 - 組織のケイパビリティ(能力):
組織自体に適応型開発をサポートするツールや環境、マインドセットが備わっているかどうかも重要です。 - チームの場所:
メンバーが同じ部屋に集まって密にコミュニケーションをとれるなら適応型がやりやすいですが、世界中に分散している場合は、ルールとドキュメントをしっかり固める予測型のアプローチが必要になることがあります。
まとめ:最適な形に「テーラリング(カスタマイズ)」しよう
アプローチの選び方に、「これを選べば絶対に正解」という魔法の杖はありません。
- 成果物(Deliverables)
- プロジェクト(Project)
- 組織(Organization)
これら3つの視点から変数を天秤にかけ、「今回のプロジェクトに最も適したやり方」へとカスタマイズ(テーラリング)していくことが、プロマネに求められる重要なスキルです。
また、「1つのプロジェクト=1つのアプローチ」に絞る必要もありません。ハードウェア部分は予測型で、ソフトウェア部分は適応型で進めるなど、同じプロジェクト内で複数のアプローチを使い分ける(ハイブリッドにする)ことが、現代の複雑なプロジェクトを成功に導く最大の近道です。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 67~68頁より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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