プロジェクトを成功に導くための「ガバナンス(統治・意思決定の仕組み)」。これをどのような形にするかは、プロジェクトにおける極めて重要な意思決定です。
ガバナンスが「過剰すぎる」とスピードが落ちてリソースの無駄遣いになり、逆に「少なすぎる」とプロジェクトが戦略から脱線し、カオスに陥るリスクがあります。
PMBOK第8版の「2.1.2 プロジェクト・ガバナンス・モデル」では、この最適なバランスをとるために、対照的な2つのガバナンス・モデルが紹介されています。
構造化されたガバナンス・モデル (Structured Governance)
主に予測型(ウォーターフォール)のプロジェクトで採用されるモデルです。
- 構成と特徴:
エグゼクティブ・スポンサー、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)、そしてプロジェクトマネージャー(PM)といった明確な役割が存在します。
上層部やPMがプロジェクトを監督し、ピラミッド型の階層と権限を持ってトップダウンで意思決定を行う、伝統的かつ統制の取れたガバナンスです。
自己ガバナンス・モデル (Self-Governance)
主に適応型(アジャイル)のプロジェクトで採用されるモデルです。
- 構成と特徴:
PMやPMOといった「中央集権的な単一の管理者」を置く代わりに、チーム全体が共同でパフォーマンスと価値提供に対する責任(アカウンタビリティ)を負います。
意思決定の権限が分散されているため、現場の状況に合わせてスピーディに動けるのが強みです。 - 課題と対策:
一方で、意思決定が断片化しやすく、意見の対立や「誰が責任を取るのか」が曖昧になるリスクがあります。これを防ぐため、チーム全員が明確に測定可能な「共通の目標」を深く理解していることが不可欠です。
【SSAITSの視点】「とりあえずアジャイル」はなぜ失敗するのか?

IT業界などを中心に、「これからはアジャイルの時代だ!」「うちの会社もアジャイル開発を取り入れよう」という声がよく聞かれます。
しかし私は、これまでプロジェクトマネジメントが不得意だった組織が、「自分たちが上手くいかなかったのはウォーターフォールだったからだ!」と勘違いし、急にアジャイル型を取り入れようとする風潮には警鐘を鳴らしています。
その理由は、今回解説した2つのガバナンス・モデルの仕組みを見れば明らかです。
ウォーターフォールは「少数のプロ」が牽引できる
ウォーターフォールで採用される「構造化されたガバナンス」は、ピラミッド型のモデルです。PMOやPMといった少数の「プロジェクトを運営する力のある人間」が方針を決定し、他のメンバーはその指示に従って動きます。
つまり、組織内に少数の優秀なマネージャーがいれば、プロジェクトを成立させることができるのです。
アジャイルは「全員に高い技量」が求められる
一方、アジャイルで採用される「自己ガバナンス」は、全員が責任者です。
指示を待つのではなく、メンバー一人ひとりがビジネスの価値を理解し、自ら状況を判断して動けるだけの「高い技術と知見」を持っていなければ成立しません。チーム全員が自律駆動できるだけの技量が必要なのです。
「決まった要件をスケジュール通りに作る(ウォーターフォール)」ことすら上手くできない組織が、いきなり「全員が自律的に考え、変化に対応しながら価値を生み出す(アジャイル)」ことができるでしょうか?
現実問題として、そこまでレベルの高い人材をチーム全員に揃えることは非常に困難です。
まとめ:まずは「構造化」をきっちりできるようになること
ガバナンス・モデルに、絶対的に正しい「唯一の正解」はありません。プロジェクトの特性や組織のレベルに合わせて設計(テーラリング)することが求められます。
しかし、もしあなたの組織がプロジェクトマネジメントに不慣れなのであれば、魔法の杖を求めて流行りのアジャイル(自己ガバナンス)に飛びつくべきではありません。
まずはウォーターフォール(構造化されたガバナンス)できっちりとプロジェクトをコントロールし、完遂できるようになること。それが、結果的に組織のプロジェクト実行能力を高める一番の近道なのです。

