PMBOK第8版の学習を進めていくと、第2章の後半で「2.4 プロジェクトに関連する機能(Functions Associated With Projects)」という非常に重要なセクションが登場します。
これまでのプロジェクトマネジメントでは、「プロジェクトマネージャー(PM)という役割の人が、これとこれをやるべきだ」という、肩書き(Role)に基づいた解説が中心でした。
しかし、第8版ではその考え方が大きくアップデートされています。今回は、なぜ「役割」ではなく「機能」という言葉が使われるようになったのか、その背景と現代的な意義について解説します。
「プロマネ一人」にすべてを求める時代の終焉
これまでの記事でも触れてきた通り、PMBOK第8版ではプロジェクトのゴールを「成果物の納品」ではなく「価値(Value)の提供」に置いています。
この「価値」を追求しようとすると、PMがチェックしなければならない項目は爆発的に増えます。
- 投資対効果(ROI)はどうなっているか?
- ステークホルダーの満足度は?
- 社会的インパクトやサステナビリティは?
- チームのウェルビーイングは守られているか?
これらすべてを一人の「プロジェクトマネージャー」という役割の人物に押し付けてしまうと、現実的には誰もその責任を果たせなくなってしまいます。
そこで第8版が提示したのが、「役割(Role)」ではなく「機能(Function)」という考え方です。
「誰がやるか」よりも「何が必要か」
PMBOK第8版では、プロジェクトを効果的に動かすために必要な「働き(機能)」を定義し、それを「誰が担ってもよい」としています。
例えば、「チームを調整し、作業を円滑に進める」という機能があったとします。
- 従来のようにPM一人がそれを担う(集中型の調整)
- チーム全員で自律的に分担する(分散型の調整)
- 作業の一部だけを専門担当者が担う(ハイブリッド型の調整)
このように、プロジェクトの状況(コンテキスト)に合わせて、柔軟に機能の担い手を変えていくことが推奨されています。
すべて特定の人物に頼りきりだった発想から、『これはAさん』『これはBさん』と、機能を分担できるようになったのは非常に現実的です。プロジェクトの視野が広くなったからこそ、一人のスーパーマンに頼るのではなく、チームの集団的な努力で価値を生み出すという姿勢が明確になったと言えるのではないでしょうか?
コンテキストに応じた3つの「調整スタイル」

プロジェクトをどう調整(コーディネート)するかについて、PMBOKでは主に以下の3つのスタイルを挙げています[1]出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, … Continue reading。
1. 分散型の調整(Decentralized Coordination)
アジャイル・プロジェクトなどでよく見られるスタイルです。特定のリーダーが細かく指示を出すのではなく、チームメンバー自身が「自己組織化」し、自分たちで管理・調整を行います。
2. 集中型の調整(Centralized Coordination)
従来のウォーターフォール型などで見られるスタイルです。指名されたプロジェクトマネージャーが、中央でリーダーシップとガイダンスを発揮し、全体を指揮します。
3. ハイブリッド・混合型の調整
集中型のリーダーシップを持ちつつも、特定の作業フェーズや一部のチームについては自己組織化(分散型)を認めるスタイルです。現代の多くの現場では、このスタイルが最も現実的な選択肢となります。
まとめ:これからのPMに求められる「采配」
「役割」から「機能」への転換が意味するのは、プロジェクトマネージャーの仕事が「自らすべてを実行すること」から、「プロジェクトに必要な機能が、適切に誰かによって果たされている状態をデザインすること」へとシフトしたということです。
「価値の提供」という広い視野を持つからこそ、あえて機能を切り分け、チームや関係者に適切に割り振る。
そんな「采配(ディレクション)」の能力こそが、これからのPMにはより一層求められるようになるでしょう。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 24~25頁より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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