以前の記事では、PMBOK第8版におけるガバナンスの真の目的は「ルールを守らせること」ではなく「プロジェクトの価値(Value)を最大化すること」である、と解説しました。
では、この「価値を問い、軌道修正をする」というガバナンス(意思決定)は、プロジェクトのライフサイクルの中で具体的にどのようなタイミングで必要になるのでしょうか?
PMBOK第8版では、「一般的なプロジェクト・ガバナンス・シナリオの例」として、プロマネやスポンサーが重大な決断を下すべき「5つの重要な局面」を定義しています。
ガバナンスが発動する「5つのシナリオ」
プロジェクトを進める中で直面する、代表的な5つの局面とその意味を見ていきましょう。
プロジェクトの立ち上げ (Project initiation)
新しいプロジェクトやフェーズが「価値ある事業」であると見なされ、それを開始するためにリソース(資源)と労力が投入される局面です。ここがすべての価値創造の出発点となります。
プロジェクトの再計画 (Project replanning)
プロジェクトマネジメント・チーム、スポンサー、または経営層による「意図的なレビュー(見直し)」が必要となり、計画の要素が大きく改訂される局面です。
プロジェクトの拡大または縮小 (Project expansion or contraction)
当初の「提供価値(Value proposition)」を維持するため、あるいは新たな価値を獲得するために、スケジュール、予算、品質のしきい値、その他の制約条件に変更が加えられ、プロジェクトの規模自体が変わる局面です。
肯定的な理由による早期終了 (Early termination for positive cause)
望ましい価値(インパクト)がすでに達成されたため、予定していたスケジュールや予算を使い切る前にプロジェクトやフェーズが完了(クローズ)する局面です。
否定的な理由による早期終了 (Early termination for negative cause)
望ましい価値(インパクト)がもはや達成不可能となったため、予定していたスケジュールや予算を使い切る前にプロジェクトやフェーズが中止(クローズ)される局面です。
【SSAITSの視点】計画の完遂より「価値」を優先する
この5つのシナリオの中で、特に注目していただきたいのが「肯定的な理由による早期終了」と「否定的な理由による早期終了」です。
従来のプロジェクトマネジメントでは、「最初に立てた計画通りに、予算とスケジュールをきっちり使い切って最後までやり遂げること」が絶対の正義とされがちでした。
しかし、PMBOK第8版は、これら5つのどの局面においても「意思決定の最大の判断基準は『包括的な提供価値』であるべきだ」と強く主張しています。
- 肯定的な早期終了: 当初の目的(価値)が想定より早く達成できたのなら、「まだ予算が余っているから」「計画書に書いてあるから」と無駄な作業を続ける必要はありません。さっさと終わらせて、リソースを次の新しいプロジェクトに投資するべきです。
- 否定的な早期終了: 市場の変化や技術的な問題で「これ以上続けても価値が出ない」とわかったなら、サンクコスト(すでに使ってしまった費用)に囚われず、勇気を持ってプロジェクトを中止(損切り)するべきです。
「計画をなぞる」ことではなく、「価値が出たなら終わらせる」「価値が出ないならやめる」という柔軟で価値主導(Value-driven)な決断を下すこと。
これこそが、激動の時代においてプロジェクトと組織を守る「効果的なガバナンス」の真の姿なのです。

