PMBOK第8版のパフォーマンス領域を読み解くシリーズ。今回からは、プロジェクトのお金に関する管理活動をまとめた「2.4 財務パフォーマンス領域(Finance Performance Domain)」に入ります[1]Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.4、2.4.1 … Continue reading。
この領域は、プロジェクトに必要な金銭的資源の計画、見積り、予算化、資金調達からコントロールまでを扱い、組織にとっての「価値(利益)」を最適化するための中核的な領域です。
まずは総論として、財務領域における重要な概念と、4つのプロセスの全体像を見ていきましょう。
財務における重要なキーコンセプト
PMBOK第8版では、効果的な財務管理と価値の最大化に向けて、以下の中核的な概念が定義されています。
価値の定義と最大化
財務領域が目指すのは、単に「予算内に収めること」だけではありません。ROI(投資回収率)や回収期間といった明確な財務的指標はもちろんのこと、規制遵守、社会的影響、顧客満足度、イノベーションといった「非財務的・定性的な要素」も含めて価値を定義し、最大化を目指します。
資金調達(Funding)と財務的制約
プロジェクトの資金は、社内予算だけでなく、顧客契約、補助金(グラント)、クラウドファンディングなど様々な手段で獲得されます。
また、予算には「制約」があります。総額の制限だけでなく、設備投資(CapEx:物理的資産の取得などの資金)と、業務費用(OpEx:日々の業務運営のための資金)といった、「資金の種類」による制約も考慮しなければなりません。
プロジェクト予算とコスト・ベースライン
スケジュールの時にも登場した「予備」は、コスト管理においても重要です。
- コンティンジェンシー予備: 予測できるリスク(既知の未知)に備える資金。
- マネジメント予備: 予測不可能な事態(未知の未知)に備える資金。
このうち、マネジメント予備を除いた、プロジェクトの正式な予算の基準線のことを「コスト・ベースライン」と呼び、これが今後の進捗測定(予実管理)の基準となります。
財務領域を構成する4つのプロセス
プロジェクトのお金を管理・統制するために、PMBOKでは以下の4つの主要プロセスが定義されています。
財務管理の計画(Plan Financial Management)
プロジェクトの収益と費用を「どう見積もり、どう予算化し、どう管理するか」のルール(指針)を定義するプロセスです。
コストの見積り(Estimate Costs)
作業を完了するために必要な金銭的資源の額(近似値)を算出します。類推見積りやボトムアップ見積りといった技法に加え、「品質コスト(高品質を担保するためのコストと、低品質によって発生する手戻りコストのバランス)」も考慮します。
予算の作成(Develop Budget)
見積もったコストを合算し、承認された「コスト・ベースライン」を確立します。いつ・どれくらいの資金が必要になるか(資金限度測定)もこのステップで決定します。
財務の監視・コントロール(Monitor and Control Finances)
財務状況を継続的に追跡し、予算逸脱に対する意思決定を行います。ここでは、EV(アーンド・バリュー)分析などの高度な進捗・コスト測定技法が活用されます。
【SSAITSの視点】「コスト管理だけ」から脱却し、利益を語れるPMへ
組織やプロジェクトの体制によっては、プロジェクトマネージャー(PM)の権限や役割は大きく変わります。
PM自身が事業責任者のように「価値や利益の最大化」を考えて自ら資金調達(予算取り)に奔走することもあれば、資金調達はプロデューサーやスポンサー(経営陣)が行い、「PMは与えられた予算内でコストの管理だけを行う」というケースも少なくありません。
しかし、だからといって「財務や利益のことは上の人が考えることだから、自分は与えられた予算を守るコスト管理だけやっていればいい」というスタンスは、これからの時代では非常に危険です。
PMBOK第8版全体を通じて強調されているように、今後のプロジェクトマネジメントの主役は、成果物そのものから「Benefit(利益・便益)」へと大きくシフトしています。
財務の話を他人に任せっぱなしにしていると、いざ仕様変更やリソース追加の議論になった際、「それがどれだけの利益を生むのか?」という事業的な意見を求められても、所在をなくして何も答えられなくなってしまいます。
いま現在はコスト管理しか任されていない立場であっても、今後のキャリアのために、PMBOKが紹介している「価値の最大化」や「投資回収」といった一段高い視座の財務観点を、しっかりと押さえておくべきでしょう。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.4、2.4.1 および 2.4.2(58-65頁)より要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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