「PMBOK®ガイド」第7版とは何だったのか?実用書から「哲学書」へ変貌した一冊を振り返る

2025年11月、アメリカでついに『PMBOK®ガイド』第8版(以下、第8版)がリリースされました。日本でも2026年中には翻訳版が登場すると予想されており、どんな内容になるのか今から楽しみです。

さて、新しい版が出るということは、現在書店に並んでいる『PMBOK®ガイド』第7版(以下、第7版)は、これでお役御免となります。
しかし、現場のプロジェクトマネージャー(PM)として正直な感想を言うと、「第7版は、日本ではあまり浸透しなかったのではないか?」という気がしてなりません。

今回は、第8版が上陸する前に、あの衝撃的だった第7版とは一体何だったのか?なぜ現場は戸惑ったのか?その功罪を振り返ってみたいと思います。

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物理的に「別物」になった衝撃

第7版が登場した時、多くのPMP®ホルダーが腰を抜かしました。内容以前に、物理的な厚さが劇的に変わっていたからです。

第6版までは、まるで昭和の電話帳のような、1,000ページを超える鈍器のような分厚さでした。改版のたびに厚くなっていたので、「第7版が出る頃には、もはや縦なのか横なのか分からない立方体になるのでは……」と冗談半分で危惧していたほどです。

しかし、蓋を開けてみれば第7版は、第6版の半分以下のスリムなボディで登場しました。
「おっ、これは学習しやすくなったのか?」「エッセンスを凝縮してくれたのか?」と期待したのですが、ページをめくるとさらなる衝撃が待っていました。

「進め方(How)」から「心構え(Mind)」へ

画像:「進め方(How)」から「心構え(Mind)」への概念図

第7版の中身は、第6版とは似ても似つかないものでした。
私の読後の率直な感想を言うなら、「宮本武蔵の『五輪の書』を読まされている気分」です。

たとえば、『漫画の描き方』という本を買ったとします。そこにはどのような内容が書かれていると思いますか?
「ペン選び」「コマ割り」「魅力的なキャラクターの描き方」
このようなことを考えていたのに、いざ読んでみると「漫画家としての心構え」について延々と書かれていた。

あるいは、「『将棋入門(駒の動かし方)』を買ったのに、内容は羽生善治さんの『決断力(勝負哲学)』だった」と言ってもいいかもしれません。

第6版までのPMBOK®は、難解ながらも「辞書兼マニュアル」でした。「ここに書かれているプロセスを順にこなし、必要なドキュメントを作れば、だいたいのプロジェクトは成功する」という「正解(型)」がそこにはありました。

しかし、第7版は「原理・原則(Principles)」ベースへと大転換しました。「プロジェクトを成功させるには、この8つのことに気を配りなさい」という教えは、確かに真理です。しかし、「で、明日の定例会で何をすればいいの?」という新人PMの悲痛な叫びには、全く応えてくれない「哲学書」になってしまったのです。

なぜ日本の試験(IPA)は第7版を無視したのか?

画像:なぜ日本の試験(IPA)は第7版を無視したのか?の図解

第7版が日本で定着しきらなかった理由の一つに、「国家試験が第7版についてこなかった」という事情があると思います。

たとえば、令和7年度の応用情報技術者試験(春期)では、「プロジェクト憲章」に関する出題がありました。
しかし、この「プロジェクト憲章」という言葉、第7版の本文には登場しません(第6版の重要概念です)。

IPAの情報処理技術者試験は、「共通フレーム(SLCP)」という開発標準をベースにしており、これはプロジェクトマネジメントのISO規格(国際標準)とリンクしています。第6版までの「プロセスベース」のアプローチはISOと親和性が高かったのですが、抽象度が上がりすぎた第7版は、試験問題としても扱いづらかったのかもしれません。

結果として、「最新のPMBOK®(第7版)が出ているのに、試験勉強では第6版の知識を詰め込む」というねじれ現象が数年間続くことになりました。

「ウォーターフォールとアジャイルの同居」という無理難題

画像:「ウォーターフォールとアジャイルの同居」という無理難題の図解

なぜ、ここまで抽象的な「哲学書」になってしまったのでしょうか。
私は、「ウォーターフォール型とアジャイル型という、水と油を混ぜようとした結果」ではないかと考えています。

  • ウォーターフォール: 「計画」が命。段取り通りに進めることが正義。
  • アジャイル: 「変化」が命。計画にとらわれず適応することが正義。

この両者に共通する「何か」を抽出しようとすれば、どうしても「価値を提供しよう」「チームワークを大切にしよう」といった、抽象度の高い道徳の教科書のような内容にならざるを得ません。

個人的な意見を言わせてもらえば、「HOW TO(手順)」で進められるのはウォーターフォール型だけであり、PMBOK®はそこに集中すべきだったのではないでしょうか。

この両者に共通する「何か」を抽出しようとすれば、どうしても「価値を提供しよう」「チームワークを大切にしよう」といった、抽象度の高い道徳の教科書のような内容にならざるを得ません。

個人的な意見を言わせてもらえば、「HOW TO(手順)」で進められるのはウォーターフォール型だけであり、PMBOK®はそこに集中すべきだったのではないでしょうか。

昨今は「アジャイル!アジャイル!」と叫ばれますが、多くの日本企業が取り組んでいるプロジェクトは、依然として「既知の未知」(自社はやったことがないが、世の中的には正解があるもの)がほとんどです。
基幹システムの刷新やビルの建設プロジェクトで、「とりあえず走り出してから考えよう」とアジャイルを適用すれば、コスト超過とスケジュール遅延で地獄を見ます。

「型」があるからこそ、そこから外れる応用もできます。
第8版では、第6版にあったような「プロセス(型)」の概念が復活しているという噂も耳にします。

「哲学」も大切ですが、現場はやはり、迷った時に立ち返れる「実用的な地図」を求めているのです。

まとめ:第8版への期待

第7版は、変化の激しい時代において「PMはどうあるべきか」を問うた、歴史的な意義のある一冊でした。しかし、実務書としてはあまりに高尚すぎたのも事実です。

間もなく日本にもやってくる第8版が、第6版の「緻密なプロセス」と、第7版の「柔軟なマインド」をどう融合させているのか。
また新しい「電話帳」に戻っているのかも含めて、楽しみに待ちたいと思います。

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