PMBOK第8版の「ガバナンス・パフォーマンス領域」には、プロジェクト全体を統括する9つのプロセスが含まれています。
今回は、その一番最初のステップとなる「2.1.6.1 プロジェクトやフェーズの立ち上げ(Initiate Project or Phase)」プロセスについて解説します。
プロジェクトは、誰かが「やろう!」と言っただけで勝手に始まるものではありません。このプロセスは、プロジェクトを公式にスタートさせ、プロジェクトマネージャー(PM)に命を吹き込むための非常に重要な「儀式」なのです。
「立ち上げ」プロセスの目的とは?

このプロセスの最大の目的は、プロジェクトの開始を正式に承認し、PMに対して「組織の資源(ヒト・モノ・カネ)をプロジェクトのために使う権限」を与えることです。
ここで作成されるのが、プロジェクトの公式な記録となる「プロジェクト憲章(Project Charter)」です。
PMはこのプロジェクト憲章を作成・承認してもらうことで、ビジネスケース(投資対効果)や組織の戦略的目標とプロジェクトを直接結びつけ、「なぜこのプロジェクトをやるのか」という大義名分を手にします。
PMのアサイン(任命)は、遅くとも次の「計画」プロセスが始まる前には行われなければならないとされています。
プロジェクト憲章には「何」を書くのか?
「プロジェクト憲章が重要なのは分かったけれど、具体的に何を書けばいいの?」と迷う方も多いでしょう。
PMBOK第8版では、主に予測型(ウォーターフォール)アプローチにおいて、プロジェクト憲章に記載すべき項目を以下のように明示しています[1]出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 Table … Continue reading。
- プロジェクトの目的 (Project purpose)
- 測定可能な目標と成功基準 (Measurable objectives and success criteria)
- ハイレベルの要件 (High-level requirements)
- ハイレベルのプロジェクト記述、境界、主要な成果物 (High-level description, boundaries, key deliverables)
- プロジェクト全体のリスク (Overall project risk)
- 要約マイルストーン・スケジュール (Summary milestone schedule)
- 事前承認された予算 (Preapproved financial resources)
- 主要なステークホルダーのリスト (Key stakeholder list)
- プロジェクト承認要件(何をもって成功とし、誰が承認するのか)
- 終了(エグジット)基準(プロジェクトを終了またはキャンセルする条件)
- アサインされたPMの名前と、その責任・権限レベル
- 憲章を承認するスポンサーの名前と権限
💡 スコープ記述書との違いに注意
立ち上げ時に作るプロジェクト憲章は、あくまで「ハイレベル(大まか・全体的)」な情報を記載するものです。
プロジェクトが進んで詳細が判明した後に作られる「プロジェクト・スコープ記述書(細かい成果物や、除外事項を定義したもの)」とは役割が異なります。最初は細部にこだわりすぎず、全体のベクトルを合わせることに集中しましょう。
アジャイル(適応型)環境での立ち上げ
予測型では上記のようにカッチリとした文書を作りますが、変化の激しい適応型(アジャイル)アプローチにおいては、プロジェクト憲章はより柔軟に設計されます。
分厚い文書の代わりに、チームを導くための「必要十分な構造」を持ったワークシートや、簡潔な「ビジョン記述書」、あるいは「プロジェクト・キャンバス」などが用いられます。これらは主に、以下のコアとなる質問(5W1H)に答えることに焦点を当てます。
- Why: なぜプロジェクトを行うのか?
- Who: 誰が関与するのか?顧客は誰か?
- What: 何についてのプロジェクトか?
- Where: どこで行われるのか?
- When: いつ始まり、いつ終わるのか?
- How: どのように実行されるのか?
明確さと柔軟性を両立させることで、プロジェクト全体の変化に適応する能力を保ちながら、ステークホルダー間の認識をすり合わせることができます。
立ち上げプロセスを構成する要素(ITTO)

最後に、このプロセスを実行するための具体的なメカニズム(インプット・ツール・アウトプット)を整理しておきます。
- インプット(前提となる情報):
ビジネスケース、ベネフィット・マネジメント計画書、契約書などの合意書。 - ツールと技法(どうやって進めるか):
専門家の判断、データ収集(インタビューやブレインストーミング)、ファシリテーション、会議など。 - アウトプット(作成されるもの):
プロジェクト憲章、前提条件ログ(プロジェクト開始時点で「真」と見なしている条件や制約のリスト)。
まとめ
「プロジェクトやフェーズの立ち上げ」プロセスと「プロジェクト憲章」は、単なる事務手続きではありません。
プロジェクトがなぜ必要なのか(価値)を定義し、それを実現するための権限をPMに与える、プロジェクトの「背骨」を作るための重要なステップです。ここを曖昧にしたまま走り出すと、後から「誰が決めるのか」「そもそも何が目的なのか」で必ず迷走します。
予測型であれ適応型であれ、まずはプロジェクト憲章(ビジョン)をしっかりと定義し、ステークホルダーと合意することから始めましょう。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 Table 4-1(129頁)より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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