以前の記事では、「プロダクトマネジメント(何を作るか)」と「プロジェクトマネジメント(どう作るか)」の役割の違いについて解説しました。
しかし、実際の組織では、この2つは常に「1対1」の関係にあるわけではありません。
PMBOK第8版では、プロダクト、プロジェクト、プログラム、そしてポートフォリオがどのように結びつくのか、「5つの関係性パターン」が提示されています[1]出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, … Continue reading。
今回は、PMBOK特有の抽象的な表現を避け、直感的に理解しやすい「具体的なビジネスの事例」に置き換えて、この5つのパターンをスッキリと解説します。
パターン1:プロダクト・ライフサイクル内の「プログラム」マネジメント

非常に巨大で長期的なプロダクトの場合、その一生(ライフサイクル)の「あるフェーズ(段階)」が複雑すぎて、複数のプロジェクトを束ねた「プログラム」として管理されるケースです。
- 具体例: 企業が提供する「超大型の業務ERPシステム(プロダクト)」
- 関係性: このシステムをオンプレミスからクラウドへ移行するフェーズが非常に大掛かりなため、「クラウド化移行プログラム」が立ち上がりました。そのプログラムの中に、「データベース移行プロジェクト」「UI改修プロジェクト」「セキュリティ強化プロジェクト」などの複数のプロジェクトがぶら下がって協調しています。
パターン2:プロダクト・ライフサイクル内の「プロジェクト」マネジメント

前回の「家計簿アプリ」の例で紹介した、最もイメージしやすい関係性です。終わりのないプロダクトの一生の中に、機能追加などのために「始まりと終わりのあるプロジェクト」が何度も立ち上がるケースです。
- 具体例: リリース済みの「家計簿アプリ(プロダクト)」
- 関係性: アプリを継続的に運営していく中で、ユーザーの要望に応えるために「レシート撮影機能の追加プロジェクト」や「確定申告ツールとの連携プロジェクト」が、必要に応じてその都度立ち上がり、実行されます。
パターン3:ポートフォリオ内の「プロダクト」マネジメント

ポートフォリオ(経営戦略を実現するための投資の集まり=事業部のようなもの)の枠組みの中で、プロダクトの誕生から終了までが丸ごと管理されるケースです。
- 具体例: 総合家電メーカーの「スマートホーム事業部(ポートフォリオ)」
- 関係性: この事業部(ポートフォリオ)の予算と戦略の境界線の中で、「ロボット掃除機(プロダクト)」や「スマート冷蔵庫(プロダクト)」といった複数の製品のライフサイクル全体が管理され、投資対効果が最適化されています。
パターン4:プログラムまたはプロジェクト内の「プロダクト」マネジメント
【巨大な事業や建設の中に、特定のプロダクト開発が含まれる場合】
パターン1や2とは逆の構造です。国家規模のプログラムや巨大なプロジェクトの内部において、「その中で使うためのプロダクト」を開発・管理する必要があるケースです。
- 具体例: 自動車メーカーの「完全自動化された新工場建設プロジェクト」
- 関係性: 工場の建屋を作る巨大なプロジェクトの内部に、「工場内のロボットを制御するための専用ソフトウェア(プロダクト)」を開発・マネジメントするチームが構成要素として含まれています。
パターン5:プログラムおよびプロジェクトを「横断する」プロダクトマネジメント
【共通基盤(プラットフォーム)となるプロダクトの場合】
1つのプロダクトが、組織内の全く別の複数のプログラムやプロジェクトにまたがって利用されるため、横断的なマネジメントが必要になるケースです。
- 具体例: IT企業の「全社共通ログインIDシステム(プロダクト)」
- 関係性: この「共通ID(プロダクト)」は、社内の「動画配信サービス開発プロジェクト」でも、「スマホ決済アプリ開発プログラム」でも使われます。そのため、プロダクトマネージャーは特定のプロジェクトに属するのではなく、全社を横断して要件や仕様を管理・調整する必要があります。
まとめ:自分の仕事の「立ち位置」を俯瞰しよう
PMBOK第8版が示す5つの関係性パターンをまとめると、以下のようになります。
- 巨大プロダクトの中に、プログラム(複数のプロジェクト群)がある
- プロダクトの中に、複数のプロジェクトがある(王道)
- ポートフォリオ(事業部)の中に、プロダクトがある
- 巨大プロジェクトの中に、プロダクトがある
- プロダクトが、複数のプロジェクトを横断している
「プロダクトマネジメント」と「プロジェクトマネジメント」は、単純な上下関係や1対1の関係ではありません。組織の規模や戦略によって、入れ子になったり、横断したりと、多様な結びつき方をします。
「今、自分が担当しているプロジェクトは、どのプロダクトのライフサイクルに属しているのか?」「あるいは、他のプログラムとどう横断しているのか?」
この5つのパターンを頭に入れておくことで、組織全体の構造や自分の仕事の「立ち位置」を俯瞰できるようになり、関係部署とのコミュニケーションが劇的にスムーズになるはずです。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 23~24頁より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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