現場のモヤモヤ、ここに置いていきませんか?完全無料・匿名OKの「お悩み相談室」はじめました

【PMと歴史】最強の儒学者・王陽明に学ぶ!命を救った「ステークホルダー・マネジメント」

「プロジェクトの成功とは何か?」

この問いに対する答えは、長くQCDにあると考えられてきました。
QCD、つまり「品質(Quality)」「予算(Cost)」「納期(Delivery)」を守って成果物を作ることが、長らくプロジェクトの絶対的な成功基準だったのです。

しかし近年、PMBOKなどの国際標準でもプロジェクトの評価軸は広がり、「プロジェクトのもたらす価値」や「ステークホルダー(利害関係者)の満足度」が非常に重要視されるようになりました。

「ステークホルダーを満足させるために、誰に、何をすべきか?」を考え、実行するのがステークホルダー・マネジメントです。
これをおろそかにすると、「プロジェクトの目標(QCD)は完璧に達成したのに、PMとしての立場が危うくなる(最悪の場合、クビになる)」という恐ろしい事態を招きかねません。

今回は、歴史上の偉業を成し遂げたにもかかわらず、思わぬところで足をすくわれそうになった中国の偉人・王陽明(おうようめい)の痛快なエピソードから、ステークホルダー・マネジメントの大切さを考えていきます。

目次
このサイトの運営者

山脇 弘成(SSAITS代表)

PMP®有資格者・Webプロジェクトマネージャー
大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
「技術」だけでなく「対話」を重視し、御社の「ほんとは、こうしたかった」を形にします。

陽明学で知られる「王陽明」、実は最強の軍略家

陽明学で知られる「王陽明」、実は最強の軍略家

王陽明(1472〜1529年)は、中国・明の時代の儒学者であり、「陽明学」の創始者として知られています。「知行合一(知識と行動は一体であるべき)」という実践を重んじる彼の思想は、幕末の日本でも吉田松陰や高杉晋作などに多大な影響を与え、今でも日本のビジネスリーダーの間で根強い人気を誇ります。

そんな思想家・王陽明ですが、実は儒教の研究や講義はあくまでサイドワーク的なものであり、本業は明王朝の官僚でした。
彼の本当に面白いところは、文官出身でありながら、盗賊の討伐や地方の反乱鎮圧で恐るべき功績を挙げ、無敗のまま軍事の最高職まで上り詰めた「最強の将軍」でもあった点です。

大成功が仇に!?反乱の疑いをかけられた王陽明

大成功が仇に!?反乱の疑いをかけられた王陽明

そんな王陽明の凄さ(と危うさ)を象徴するのが、1519年に起きた皇族の反乱「寧王の乱」です。

反乱軍の大軍勢に対し、王陽明は急遽かき集めた兵と見事な情報戦(フェイクニュースの流布など)を駆使し、わずか43日という驚異的なスピード(圧倒的な納期と低予算)で反乱を鎮圧し、首謀者の寧王を生け捕りにしました。

プロジェクト(反乱鎮圧)としては、文句なしの100点満点の大成功です。
しかしこの後、王陽明は思いもよらない事態に見舞われます。なんと、当時の皇帝(正徳帝)が自ら大軍を率いて南下し、「王陽明も反乱軍の仲間ではないか」と討伐の牙を剥こうとしているという情報をキャッチしたのです。

原因は、ステークホルダーたちの「嫉妬とメンツ」でした。
当時の正徳帝は自ら戦争ごっこをして手柄を立てるのが大好きな、少し困った皇帝でした。王陽明が反乱を「あまりにも早く片付けてしまった」ため、皇帝やその側近たちは自分たちの出番(見せ場)を失ってしまったのです。王陽明の活躍を快く思わない側近たちは「王陽明は寧王と結託している」と皇帝に讒言(ざんげん)しました。

命を救った完璧な「ステークホルダー・マネジメント」

命を救った完璧な「ステークホルダー・マネジメント」

絶体絶命の危機に陥った王陽明ですが、ここで最強のプロマネたるゆえんを発揮します。
彼は皇帝の側近の中で、比較的まともな宦官(かんがん)であった張永という人物に密かに接触します。

そして、自分が生け捕りにした反乱軍の首魁(一番の手柄)をあっさりと張永に引き渡し、さらに「今回の早期鎮圧は、すべて皇帝陛下の威光と、朝廷の重臣たちの素晴らしい戦略のおかげです」という、自分の手柄を完全に譲る上奏文を書き直して提出したのです。

この見事な「根回し(張永というキーパーソンの取り込み)」と「手柄の譲渡(皇帝のメンツを立てる)」というステークホルダー・マネジメントにより、皇帝側近の不満は鎮まり、王陽明は命拾いをしました。

彼は「自分が英雄になること(手柄)」よりも、「国に平和をもたらすこと(プロジェクトの真の価値)」を優先したのです。

類する事例は過去にも、そして現代のビジネスにも

類する事例は過去にも、そして現代のビジネスにも

このように、圧倒的な成果を出した人間が、ステークホルダーへの配慮(根回し)を欠いたために、味方からの嫉妬で足を引っ張られ、身を滅ぼすという例は歴史上枚挙にいとまがありません。

南宋の救国の英雄・岳飛(がくひ)や、北斉の美しき天才武将・蘭陵王(らんりょうおう)など、敵よりも味方(皇帝や宰相)の嫉妬と保身によって処刑された悲劇の将軍は数多く存在します。彼らは「戦(QCD)」には勝ちましたが、「ステークホルダー管理」に敗れたのです。

これは決して昔の歴史だけの話ではありません。現代のビジネスにおいても、全く同じことが起こります。

  • あるプロジェクトが成功して特定の部署だけが目立つことを恐れ、他部署が非協力的になる。
  • 自分の頭越しにプロジェクトが進められたことに腹を立てた役員が、最終承認でちゃぶ台を返す。

近年話題になった大ヒットドラマ『半沢直樹』や『地面師たち』でも、最大の敵は外部ではなく「社内の権力闘争や派閥の対立」として描かれています。

まとめ:PMは「敵を作らない」ことが最大の防御

まとめ:PMは「敵を作らない」ことが最大の防御

いかに優れたシステムを開発しても、いかに売上目標を早期達成しても、「その成功を快く思わない人(ネガティブなステークホルダー)」を放置しておけば、いつ岳飛や蘭陵王のような悲劇に見舞われるかわかりません。

プロジェクトマネージャー(PM)は、自チームの目標達成(QCD)に邁進するのと同じくらい、あるいはそれ以上に、以下の点に気を配る必要があります。

  • キーマンは誰か?(このプロジェクトに影響力を持つ人は誰か)
  • 彼らの期待や懸念は何か?(メンツを潰されると怒る人はいないか)
  • どうすれば彼らに「手柄」を感じさせられるか?(王陽明の上奏文のように)

王陽明が最強だったのは、軍略の才能だけでなく、この「人間の心理(ステークホルダーの感情)」を読み切り、適切な対処ができる人間力を持っていたからかもしれません。
現代のPMも、ぜひこの歴史の教訓を胸に刻み、味方を敵に回さないスマートなプロジェクト運営を目指しましょう。

参考

書籍

  • 守屋洋『陽明学 生き方の極意』PHP研究所、1997年。

Webサイト

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次