「気づいたら、いつの間にか新しいプロジェクトが始まっていて、自分の名前がメンバーに入っていた」
現場で働いていると、そんな経験をすることがよくあると思います。
目の前の作業に追われていると、「そもそも、なぜこのプロジェクトは始まったんだろう?」と、立ち上がりのきっかけ(トリガー)を意識する機会は意外と少ないものです。
しかし、プロジェクトマネジメントの国際標準であるPMBOK第8版では、組織のリーダーがプロジェクトを承認(立ち上げ)する理由を、明確に4つのカテゴリーに整理しています。
今回は、この「4つの理由」を紐解きながら、プロジェクトの存在意義と組織の健全性について考えてみましょう。
プロジェクトが立ち上がる「4つの理由」

PMBOK第8版によると、組織のリーダーは以下の4つの要因のいずれか(または複数)に対応するため、組織を変革する手段としてプロジェクトを立ち上げます[1]出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, … Continue reading。
- 規制、法律、または社会的な要件を満たすこと
(例:新しい法規制に対応するためのシステム改修プロジェクト) - ステークホルダーの要望またはニーズを満たすこと
(例:顧客からの強い要望による新機能開発、あるいは「社長の鶴の一声」による新規事業) - ビジネス戦略または技術戦略を実施または変更すること
(例:全社的なDX推進戦略に基づく、新しいクラウドツールの導入プロジェクト) - プロダクト、プロセス、組織、またはサービスを創造、改善、または修正すること
(例:業務効率を上げるための社内ワークフロー改善プロジェクト)
日本の現場に多いのは「ステークホルダーの要望(トップダウン)」?

この4つの分類を見ると、皆さんの職場で走っているプロジェクトがどれに当てはまるか、なんとなく見えてくるのではないでしょうか。
とくに中小企業が多い日本において、最も肌で感じやすいのは「2. ステークホルダーの要望を満たすこと」かもしれません。
ステークホルダーには顧客だけでなく、経営層も含まれます。つまり、「社長が『明日からこれをやるぞ!』と言ったから始まった」というトップダウン型のプロジェクトです。
現場としては「また社長の思いつきで……」と振り回されるように感じるかもしれませんが、これもPMBOKの定義に照らし合わせれば、組織の存続(バイアビリティ)を高めるための立派なプロジェクトの引き金(トリガー)の一つなのです。
「法令対応」や「戦略変更」のプロジェクトは責任重大だが、進めやすい

一方で、よりダイナミックな組織の変革を伴うのが、「1. 法律・社会要件への対応」や「3. 戦略の変更」をトリガーとするプロジェクトです。
たとえば、「来月から法律が変わるから、それまでにシステムを対応させなければ業務が停止してしまう」といったプロジェクトは、絶対に失敗が許されないため責任重大です。
しかし、その分「なぜこのプロジェクトをやるのか(目的)」が誰の目にも明らかであり、チームの危機感や意識の統一が図りやすいという大きなメリットがあります。迷ったときも「法要件を満たすため」という明確なゴール(価値)に立ち返ることができるため、推進力が生まれやすいのです。
プロジェクトが生まれない組織は「硬直化」のサイン

この4つのトリガーを知ると、組織のあり方について一つの重要な真理が見えてきます。
世の中の法律や社会のルールは常に変化し、競合他社の動きによって自社のビジネス戦略も変えていかなければ生き残れません。
つまり、世の中が変化しているのに、社内で何の新しいプロジェクトも立ち上がっていないとすれば、それは組織が「変化への対応」を放棄し、硬直化している危険なサインだと言えます。
裏を返せば、あなたの職場で次々と新しいプロジェクトが立ち上がり、あなたがそれにアサインされている状況は、決して悪いことではありません。それは組織が世の中の変化に反応し、新しい価値を生み出そうとしている「新陳代謝が活発な証拠」なのです。
まとめ
プロジェクトは、誰かの単なる思いつきや気まぐれではなく、組織が生き残り、価値を高めるための必然的な「変革の手段」として立ち上がります。
- 法令や社会の要件を満たすため
- ステークホルダーの要望に応えるため
- 戦略を実施・変更するため
- モノやプロセスを改善するため
自分がアサインされたプロジェクトが、この4つのうちどれをトリガーとして生まれたのか。その背景(コンテキスト)を意識するだけでも、目の前のタスクの見え方は大きく変わり、より「価値」にフォーカスしたプロジェクトマネジメントができるようになるはずです。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 7~8頁より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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