テーラリング(tailoring)とは、直訳すると「洋服の仕立て」を意味する言葉です。
「洋服の仕立て直し」などで日常的に使われる言葉ですが、プロジェクトマネジメントにおいては、「プロジェクトを成功させるために、プロセス、インプット、ツール、技法、アウトプット、およびライフサイクルなどを適切な組み合わせに調整すること」を意味します[1]PMBOK第6版、721頁。。
プロジェクトマネジメントの国際標準であるPMBOKでは、プロジェクトを効率的に進めるための様々な知識やプロセス、ツール群が紹介されています。
しかし、優秀なプロジェクトマネージャーは、これらの知識や組織のルールを鵜呑みにしてそのまま適用するようなことはしません。目の前のプロジェクトの特性や状況に合わせて、最適に「調整」していくことが求められます。
この柔軟な調整作業を、テーラー(仕立て屋)が顧客の体型や好みに合わせて洋服を仕立てるプロセスに見立てて、「テーラリング」と呼びます。
現場での実践:ソフトウェア開発プロジェクトにおけるテーラリング
より具体的に、現場のソフトウェア開発プロジェクトにおけるテーラリングの重要性を見ていきましょう。
一般的に、ソフトウェア開発を行う組織では、品質を担保するために「標準の開発プロセス」が定義されています。
「立ち上げプロセスではこの承認を得る」「計画プロセスではこれらのドキュメントを作成する」といったルールを組織として用意しておくことは、非常に大切です。
しかし、一口に「ソフトウェア開発」と言っても、その内実はさまざまです。
- 数十人が関わる大規模な新規システム開発
- 既存アプリケーションの軽微な画面修正(マイナーバージョンアップ)
- 一刻を争う不具合対策のための緊急リリース
これらすべての開発案件に対して、画一的に「組織の標準プロセス」をそのまま適用してしまうと、現場に大きな歪みが生じます。
例えば、軽微な修正プロジェクトにおいて、大規模開発用の分厚いドキュメント作成を義務付ければ、メンバーに要らぬ負担がかかりスピードが落ちます。
逆に、新規開発で必要なセキュリティ調査のプロセスを省略してしまえば、後々プロジェクトに致命的な混乱をもたらすでしょう。
そのため、プロジェクトを立ち上げる段階で、「今回のプロジェクトの規模やリスクに合わせて、組織の標準プロセスをどこまで適用し、何を省略(または追加)するのか」を判断することが大切です。
このように、現場のリアルな状況に合わせてプロセスを柔軟に「仕立て直す」ことこそが、テーラリングの実践です。
AI時代のテーラリング:PMBOK第8版が示す新たな重要性

さらに現代において、テーラリングは別の側面からも非常に注目を集めています。それが「AIの活用」です。
2025年に発刊されたPMBOK第8版では、AIの力をプロジェクトマネジメントに取り込むためにも、テーラリングのスキルがより一層重要になると言及されています。
たとえば、ChatGPTやGeminiなどのLLM(大規模言語モデル)に「新しいWebサービス開発のプロジェクトの進め方を教えて」と質問すれば、もっともらしい一般的な進行方法を瞬時に回答してくれます。
また、ネット上で拾った「ガントチャートの生成方法」というプロンプト(AIへの命令文)を使えば、たしかに綺麗なガントチャートがすぐに作れるかもしれません。
しかし、AIが出力したその回答やスケジュールが、あなたの抱えるプロジェクトの複雑な事情や、ステークホルダーの人間関係に「ふさわしいかどうか」は別問題です。
AIの進化により、細かな作業や初期案の作成は圧倒的なスピードでできるようになりました。しかしその分、これからのプロジェクトマネージャーには、AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、「これって今のこのプロジェクトに本当に使えるの?」という批判的な目(クリティカル・シンキング)を持つことが強く求められます。
AIという強力な道具が生み出した「既製品」を、人間の目と手でプロジェクトの独自の文脈に合わせて「仕立て直す(テーラリングする)」。
これこそが、AI時代におけるプロジェクトマネージャーの最も重要な役割であり、組織の競争力を支える戦略的なスキルといえるでしょう。
注
| ↑1 | PMBOK第6版、721頁。 |
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