2025年にプロジェクトマネジメントの国際標準であるPMBOK第8版がリリースされました。
前版であるPMBOK第7版と第8版の間でビジネスを取り巻く環境は大きく変わりましたが、特筆すべきはAIの台頭です。
近年目覚ましい進化を遂げているLLM(大規模言語モデル)などの生成AIは、従来の複雑な条件分岐プログラムとは一線を画し、まるで人間のように言葉を理解し、驚異的なスピードでタスクをこなすようになりました。
最新のPMBOK第8版でも、このAIとの付き合い方について明確な言及がなされています[1]Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, … Continue reading。
プロジェクトマネジメントの状況は近年、気候変動、資源制約、地政学的な不安定さ、格差の拡大といった世界的な課題の進化や、人工知能(AI)などのテクノロジーの進歩によって大きな変化を遂げてきました。[中略]
同時に、生成AI(GenAI)は、責任を持って正しく使用されれば、プロジェクトの成果を向上させる可能性のある高度なツールと機能を提供することで、プロジェクトマネジメントの分野に貢献しています。人工知能主導のソリューションは、膨大な量のデータを分析して実用的な洞察(インサイト)を提供し、リスクを予測し、最適な行動方針を推奨することができます。この技術は、意思決定プロセスを強化し、日常的なタスクを自動化し、より正確な予測と計画をサポートすることができます。
効果的に適用されれば、AIは、プロジェクトマネージャーが戦略的な活動の実行、ステークホルダー・エンゲージメントの管理、イノベーションの促進、そしてプロジェクトの状況に応じた継続的な改善の推進に集中できるよう支援します。ただし、AIを使用することの影響は、システムの入力データの品質や人間による監視(ヒューマン・オーバーサイト)などの要因に依存します。
つまり、AIというのは、プロジェクトを取り巻く「予測不可能な環境要因」であると同時に、「有効なツール」でもあるということです。
予測不可能な環境としてのAI

ビジネスを取り巻く予測不可能な環境として、AIは大きな存在です。
農家にとっての気候変動や、貿易にとっての地政学的な問題が見過ごせない議題であるのと同様に、あらゆるプロジェクトがAIの動向に注意を払わなければなりません。
たとえば、自分たちが苦労して開発していた製品やサービスが、ある新しいAIの出現により一晩のうちに陳腐化してしまう……。これは、現代のプロジェクトにおいて常に想定しなければならないリアルなリスクです。
このAIという不確実性の高い要素と上手く付き合うためにも、状況の変化に柔軟に対応できる、アジャイル開発に代表される「適応型アプローチ」への理解を深めることが極めて重要だとPMBOK第8版は指摘しています。

力強い味方としてのAI

一方で、AIはプロジェクトを脅かす存在であると同時に、プロジェクトマネジメントを円滑に進めるための非常に強力なツール(味方)にもなります。
これまで高度な技術や専門知識が必要だったデータ分析が誰でも実行しやすくなり、音声認識AIの精度向上によって議事録の作成もずいぶん楽になりました。AIの導入により、プロジェクトの計画や予測、日常的なタスクはより早く・正確に行われることが期待されています。
プロジェクトごとの調整(テーラリング)が大切
ただし、AIによっていくら作業が効率化されたとしても、その出力をそのまま使えるわけではありません。プロジェクトごとの状況に合わせて調整していくことが不可欠です。これをPMBOKでは「テーラリング(Tailoring)」と呼びます。

テーラリングの語源でもある「洋服の仕立て」で考えてみましょう。
たとえば、パーティに着ていく洋服を自分でつくることになったとします。最近ではAIに聞けば、洋服の作り方を丁寧に教えてくれますし、素敵なデザインを画像で生成してくれるかもしれません。
しかし、そのデザイン通りに作ったとしても、あなたにぴったりの洋服になるわけではありません。あなたの体形に合わせて採寸し、あなたらしさを表現する素材やデザインに微調整していく必要があります。
プロジェクトマネジメントも全く同じです。
AIに聞けば、一般的なプロジェクトの進め方やツールを教えてくれますし、それらしい資料の雛形を生成してくれることもあります。しかし、それらの情報や資料が、あなたの抱えるプロジェクトの複雑な文脈や、関わるステークホルダーの感情にふさわしいかどうかはAIには判断できません。
AIの出力を鵜呑みにせず、人間がしっかりと監視(ヒューマン・オーバーサイト)し、プロジェクト独自の状況に合わせて手法や成果物を調整していく「テーラリング」こそが、AI時代においてもプロジェクトマネージャーの極めて重要な仕事になるのです。

さいごに:AI時代におけるPMの真の価値
AIの進化により、「プロジェクトマネージャーの仕事は奪われるのではないか?」と不安に感じる方もいるかもしれません。
しかし、PMBOK第8版が示しているのはその逆です。
AIに日常的なタスクやデータ分析を任せることで、プロジェクトマネージャーは「戦略的な活動」「ステークホルダーとの対話や関係構築」「チームのイノベーション促進」といった、より人間的で高度な付加価値を生み出す仕事に集中できるようになります。
AIは万能の魔法ではありません。AIという強力な道具を使いこなし、目の前のプロジェクトに最適な形に「仕立て上げる(テーラリングする)」こと。それこそが、これからの時代に求められるプロジェクトマネージャーの真の価値なのです。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 4頁より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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