これまで、世界最高のデザイン・ファーム「IDEO」が実践するイノベーション手法「ディープ・ダイブ」と、その根幹である「現場の観察」についてご紹介してきました。
現場を観察して課題(バグ)を見つけたら、次はいよいよ解決策を生み出すステップです。アイデア発想の手法といえば「ブレインストーミング(ブレスト)」が有名ですよね。
しかし、皆さんの会社で行われているブレストは、本当に機能しているでしょうか?
「誰も発言せず、シーンとしている」「結局、声の大きい上司の意見にまとまる」……そんなお通夜のような会議になっていないでしょうか。
今回は、トム・ケリーの著書『発想する会社!』の第4章「究極のブレインストーミング」から、活気に満ちたアイデアの泉を作り出す「7つの秘訣」と、絶対にやってはいけない「6つの落とし穴」を解説します。
IDEO流・ブレインストーミングを成功させる「7つの秘訣」

IDEOでは、ブレストは単なる会議ではなく、チームのエネルギーを爆発させる「イベント」として扱われます。彼らが実践する7つの秘訣を見ていきましょう。
1. 焦点を明確にする
「新しい自転車のアイデアを出そう」といった広すぎるテーマはNGです。「自転車に乗る人が、お湯をこぼさずに走りながらコーヒーを淹れる方法」といったように、明確な制限と具体的なターゲットを絞ることで、思考が研ぎ澄まされます。
2. 遊び心のあるルールを設ける
IDEOの会議室の壁には、「批判をしない」「突飛なアイデアを歓迎する」といったルールが掲げられています。この「心理的安全性」の担保が、すべての根ブティックになります。
3. アイデアを「数える」(質より量)
ブレストにおいて一番大切なのは「量」です。参加者がアイデアの数を競うゲームのように設計します。IDEOでは「1時間に100個のアイデアを出す」という目標を立て、猛烈なスピードで思考を回します。
4. 力を蓄積し、ジャンプする
どんなに優秀なチームでも、途中でアイデアが枯渇して勢いが落ちる瞬間があります。その時、進行役(ファシリテーター)が「では、もし予算が無限にあったら?」「子供向けの視点に変えてみよう」と議論の方向を意図的に切り替え(ジャンプさせ)、新たなエネルギーを生み出します。
5. 場所は記憶を呼び覚ます
出たアイデアは、参加者全員の目に見える形で空間に共有します。壁一面に大きな模造紙を貼り、ポスト・イットやスケッチで埋め尽くすことで、空間そのものがアイデアのキャンバスになります。
6. 精神の筋肉をストレッチする
いきなり重いテーマに入らず、テンポの速い言葉遊びなどでグループの「ウォーミングアップ(アイスブレイク)」を行います。脳をほぐすことで、発想の瞬発力が上がります。
7. 身体を使う
ただ座って喋るだけではありません。身の回りにある素材(紙コップやテープなど)で簡単なプロトタイプを作ったり、ユーザーの行動を身振り手振りで演じたりする「ボディストーミング」を取り入れることで、机上の空論を防ぎます。
ブレストを台無しにする「6つの落とし穴」

一方で、せっかくのブレストを死に体にしてしまう「やってはいけない行動」もあります。特に日本のビジネスシーンで陥りがちなポイントが含まれています。
1. 上司が最初に発言する
【要注意!】 上司が最初に「私はこう思うんだけど」と発言したり、細かいルールを決めたりすると、部下はそれに忖度してしまい、自由なアイデアが死滅します。
2. 全員にかならず順番がまわってくる
「では、Aさんから時計回りで意見を……」というやり方は、ブレストではなく単なる「民主的な会議(報告会)」です。義務感になり、アイデアが飛び交う勢いと熱量が削がれてしまいます。
3. エキスパート以外立入禁止
専門家(エキスパート)ばかりを集めると、「それは技術的に無理だ」「過去に失敗した」と既存の常識に囚われがちです。あえて別の部署の人や、素人を混ぜることで、突飛な化学反応が起こります。
4. 社外で行なう
「リゾート地やスキー場のロッジで合宿すれば、良いアイデアが出るはず」というのは幻想です。ブレストは非日常のイベントではなく、日常の延長にある会社のカルチャーとして根付かせるべきです。
5. ばかげたものを否定する
「それは現実的じゃないよ」と否定するのは簡単ですが、絶対にやってはいけません。現実離れしたバカバカしいアイデアの「破片」から、実用的な大ヒット商品が生まれることは多々あります。
6. すべてを書き留める
議事録係が「一言一句漏らさず記録しよう」とパソコンに集中してしまうと、そのタイピングのスピードに議論が引っ張られ、フロー(勢い)が止まってしまいます。記録は壁のポスト・イットと写真で十分です。
まとめ:アイデア出しは「心理的安全性」と「エネルギー」
IDEOのブレインストーミング術を眺めていると、その本質が「いかにして参加者の心理的安全性を確保し、子供のような遊び心とエネルギーを引き出すか」にあることがわかります。
私自身、プロジェクトの現場でこの手法を意識することが多々あります。
特に、「上司は口火を切らない」「順番に発言させない」「まずは質より量で100個出す」というのは、お金をかけずに明日からすぐ実行できる強力なアドバイスです。
次回のチーム会議では、ぜひこのIDEO流のルールを壁に貼り出し、お通夜のような空気をぶっ壊して、活気に満ちた「究極のブレインストーミング」を体験してみてください!
参考
- トム・ケリー、ジョナサン・リットマン 著(鈴木主税、秀岡尚子 訳)『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』早川書房、2002年

