プロジェクト憲章の概要
プロジェクト憲章とは
プロジェクト憲章(Project Charter)とは、プロジェクトの認知・承認を目的として、プロジェクトの初期段階で作成される企画書のことです[1]出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 Section … Continue reading。
PMBOK第8版においては、「ガバナンス・パフォーマンス領域」の中の「プロジェクトやフェーズの立ち上げ」プロセスで作成されると定義されています。
これは単なる事務書類ではなく、「プロジェクト・マネジャー(PM)が組織の資源(ヒト・モノ・カネ)をプロジェクト活動のために使用する権限を与える」ための、プロジェクトの存在を正式に認可する重要な文書です。
「憲章」という表現について
PMBOKを学び始めるとすぐに出会う「プロジェクト憲章」ですが、「憲章」という言葉はマグナカルタ(大憲章)や国連憲章程度しか目にする機会がなく、少し大げさで難解な印象を与えるかもしれません。
実務においては、内容的に言って「プロジェクト企画書」「プロジェクト方針書」「プロジェクト目標定義書」などと認識したほうが、コミュニケーション上もスムーズに進むことが多いでしょう[2]深沢隆司『ベースラインで成功する プロジェクトマネジメント』日本実業出版社 、2008年、150頁。。
プロジェクト憲章はなぜ必要なのか?

組織内部の契約書の代わりに使う
プロジェクト憲章は、組織の中でプロジェクトの合意を得るために作成されます。
外部のベンダーに開発を依頼する場合は「契約書」を取り交わして業務範囲を定めますが、組織内部の他部署に協力を要請する場合、契約書は結びません。そのため、「○○部の協力が必要だ」と言っても、応じてくれないトラブルが起こり得ます。
プロジェクト憲章を作成し、経営層やスポンサーの承認を得ることで、組織内部の契約書の代わりとして、全社的な協力体制を構築しやすくなります。
プロジェクト・マネジャーの権限と理解を明確にする
プロジェクト憲章がないプロジェクトは、いわば「組織の正式な合意(大義名分)を得られていないプロジェクト」です。
憲章を作成する過程で、「このプロジェクトの真の目的は何か」「PMにどこまでの予算・決済権限が与えられるのか」をスポンサーとすり合わせることで、PM自身のプロジェクトへの理解が深まり、後々の「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。
プロジェクト憲章の内容
PMBOK第8版(および第6版)において、特に予測型(ウォーターフォール)アプローチを採用する場合、プロジェクト憲章には以下の項目を盛り込むことが推奨されています[3]PMBOK第8版、第2部、129頁より。
- プロジェクトの目的 (Project purpose)
- 測定可能な目標と成功基準 (Measurable objectives and success criteria)
- ハイレベルの要件 (High-level requirements)
- ハイレベルのプロジェクト記述、境界、主要な成果物 (High-level description, boundaries, key deliverables)
- プロジェクト全体のリスク (Overall project risk)
- 要約マイルストーン・スケジュール (Summary milestone schedule)
- 事前承認された予算 (Preapproved financial resources)
- 主要なステークホルダーのリスト (Key stakeholder list)
- プロジェクト承認要件(何をもって成功とし、誰が承認するのか)
- 終了(エグジット)基準(プロジェクトを終了またはキャンセルする条件)
- アサインされたPMの名前と、その責任・権限レベル
- 憲章を承認するスポンサーの名前と権限
💡 スコープ記述書との違い
プロジェクト憲章は立ち上げ時に作られるため、あくまで「ハイレベル(大まか)」な情報に留めます。その後、計画が進んで詳細が判明した後に、具体的な作業範囲を定義した「プロジェクト・スコープ記述書」が作成される、という流れになります。
アジャイル(適応型)環境でのプロジェクト憲章

現代のプロジェクトマネジメントにおいて重要なのは、憲章の形は「一つではない」ということです。
変化の激しい適応型(アジャイル)アプローチにおいては、上記のような詳細な文書を作る代わりに、「プロジェクト・キャンバス」や「ビジョン記述書」といった、より柔軟で簡潔なフォーマットが憲章として用いられます。
これらは主に、以下のコアとなる質問に答えることに焦点を当てます。
- Why: なぜプロジェクトを行うのか?
- Who: 誰が関与するのか?顧客は誰か?
- What: 何についてのプロジェクトか?
- Where: どこで行われるのか?
- When: いつ始まり、いつ終わるのか?
- How: どのように実行されるのか?
明確さと柔軟性を両立させることで、変化に適応しながらも、ステークホルダー間のベクトルを合わせ続けることが目的です。
プロジェクト憲章を作成するための材料と技法

プロジェクト憲章を作成するプロセスでは、以下のようなインプット(材料)やツールを使用します。
インプット(前提となる情報)
- ビジネス文書(ビジネス・ケース、ベネフィット・マネジメント計画書など): そのプロジェクトに投資する価値があるかどうかを示した文書。
- 合意書: 契約書や覚書など。
- 組織体の環境要因 / 組織のプロセス資産: 組織のルールや、過去のプロジェクトのテンプレート・教訓など。
ツールと技法(作成手段)
プロジェクト開始前は情報が少ないため、関係者からアイデアや情報を引き出す以下の技法が使われます。
- データ収集: ブレインストーミング、フォーカス・グループ、インタビュー
- 人間関係とチームのスキル: ファシリテーション、コンフリクト・マネジメント
- 専門家の判断: 組織戦略や業界の技術基準を知る人物からのアドバイス

