ステークホルダー管理の6つのキーコンセプト|PMBOK第8版が示す「スポンサーの重要性」とは

前回、ステークホルダー・パフォーマンス領域の全体像を取り上げました。今回はその土台にあたる「キーコンセプト」を掘り下げていきます[1]Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 … Continue reading

PMBOK第8版では、この領域を効果的に実践するために6つの核心的な概念が定義されています。用語としては見慣れたものが並びますが、それぞれが何を指し、なぜ重要とされているのかを押さえておくと、日々のプロジェクト運営での判断が変わってくるはずです。

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山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

PMP®有資格者・Webプロジェクトマネージャー
大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
「技術」だけでなく「対話」を重視し、御社の「ほんとは、こうしたかった」を形にします。

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ステークホルダー・エンゲージメント

ステークホルダー管理の6つのキーコンセプト|PMBOK第8版が示す「スポンサーの重要性」とは

ステークホルダー・エンゲージメントとは、ステークホルダーのニーズや関心を特定・分析し、その期待値やコミュニケーションを管理して、プロジェクトへの支持を育んでいく活動全体を指します。

鍵になるのは、適切なタイミングで巻き込むこと、常に適切な情報を共有すること、良好な対話を維持することの3点です。
逆に言えば、巻き込むのが遅れたり、情報が届いていなかったり、対話が形骸化したりすると、関与はあっさり途切れてしまいます。

アクティブなスポンサーは「決定的な成功要因」

アクティブなスポンサーは「決定的な成功要因」

このコンセプトの中で、PMBOKがとりわけ強く打ち出しているのがスポンサーの存在です。数々の研究が示すとおり、アクティブなプロジェクトスポンサーの存在は、プロジェクトが好ましい成果を達成するための極めて重要な成功要因(Critical success factor)である、と明記されています。

スポンサーは意思決定権を持ち、人的・物的・仮想的な資源を確保し、組織の戦略とプロジェクト目標の整合性を担保する、中心的な役割を担います。

具体的には、次のような広範な活動に深く関与するとされています。

スポンサーの役割
  • プロジェクトの立ち上げ、プロジェクト目標およびビジネスケース(経済的実現可能性調査)の定義
  • プロジェクト憲章の承認、および憲章に対するすべての変更の承認
  • プロジェクトマネージャーの任命と権限付与
  • ステアリング委員会(意思決定・諮問委員会)の立ち上げと、そのメンバーへの就任
  • プロジェクトマネジメント計画書、およびそのすべての変更の承認
  • プロジェクト成果物がもたらす長期的なベネフィット実現の確保
  • 必要に応じたプロジェクト中止(早期終了)の提案
  • プロジェクト完了(クローズ)の承認

こうして並べてみると、スポンサーの関与はプロジェクトの入口から出口までを貫いていることが分かります。「中止を提案する」ことまで役割に含まれているのは、見過ごせないポイントです。続けるかどうかを判断できる立場の人が、責任を持って関与していることが前提になっているわけです。

なお、優先度の高いプロジェクトでは、スポンサーが役員(エグゼクティブ・リーダーシップ・チーム)のメンバーであることが多くなります。その場合、上級ステークホルダーに合わせたコミュニケーションスタイルや対話の方法を深く理解する努力が必要だ、とPMBOKは指摘しています。現場と同じ粒度・同じ頻度で報告しても届かない相手がいる、ということです。

ステークホルダー満足度

ステークホルダーの満足度は、プロジェクト目標の中にしっかりと統合され、優先されるべき事項だとされています。「余裕があれば配慮するもの」ではなく、目標そのものの一部だという位置づけです。

管理のポイントは、顧客、エンドユーザー、管理者、経営陣、チームメンバーといったすべてのステークホルダーと継続的なコミュニケーションを維持すること。そのうえで、彼ら個別のニーズや期待を深く理解し、問題が起きたときには迅速に対処し、利害の対立(コンフリクト)を調整しながら、意思決定や活動に関与してもらいます。

満足度は、最後に良い成果物を出せば得られるものではありません。途中のやり取りの積み重ねで決まっていくものだ、という前提に立つ必要があります。

チーム・エンゲージメント

チーム・エンゲージメント

意外に見落とされやすいのが、プロジェクトチームのメンバー自身も極めて重要なステークホルダーであるという点です。

理由は明快です。プロジェクト期間中に実際にタスクを遂行し、目標を達成させる原動力はチームであること。そして、プロジェクトの進むべき道を決めるような困難な局面において、スポンサーやステークホルダーに対して実践的な提言を行うのもチーム自身だからです。

外部の関係者への対応に追われて、内側のメンバーへの情報共有や意見の吸い上げが後回しになっていないか。ここは意識的に確認したいところです。判断材料を一番持っているのは、往々にして現場のメンバーです。

コミュニケーション管理

コミュニケーションは、ステークホルダーが関与し続けるための不可欠な基盤です。

PMBOKが示すアプローチは、ステークホルダーのニーズ・嗜好・立場に合わせて、コミュニケーションの方法を個別にテーラリング(調整)するというものです。狙いは2つあります。

ひとつは、関係者が意思決定を下すために必要なすべての情報を、適切なタイミングで提供すること。もうひとつは、特定の行動や選択に伴う潜在的なリスクについても明確に認識できる状態をつくることです。

後者は特に重要だと思います。「この方針で進めるとこうなります」という良い面だけでなく、「その場合、こういうリスクがあります」まで伝えて初めて、相手は責任を持って判断できます。判断してもらったあとで「そんなリスクは聞いていない」となる事態を防ぐのは、伝える側の役割です。

データ駆動型の意思決定

データ駆動型の意思決定

プロジェクトマネージャーには、ステークホルダーからタイムリーかつ適切な意思決定(合意)を確実に引き出すために、十分な補足資料を用意し、意思決定のプロセスを先導(ファシリテート)する責任があるとされています。

そのうえで第8版が新たに踏み込んでいるのが、AI搭載ツールの活用です。

プロジェクトのデータが膨大かつ複雑になっている現代において、予測分析(Predictive analytics)やデータ可視化(Data visualization)といったAI技術を用いることで、大量のデータを効率的に収集・分析・解釈し、アクションにつながるインサイトを生成できる、と述べられています。

これにより、事実に基づいた意思決定のための提案をステークホルダーに提示できるようになり、意思決定のスピードと確実性が向上します。「なんとなくこう思います」ではなく、根拠を添えて判断を仰ぐ。その手段としてAIを位置づけている点が、第8版らしいところです。

ベンダーおよびサプライヤー管理/調達

プロジェクトで外部の資源(パートナー、ベンダー、サプライヤーなど)を活用する場合、彼らはプロジェクトの成否に直結する極めて重要なステークホルダーになります。

プロジェクトマネージャーには、契約関係を適切に管理し、外部パートナーとの強固な信頼関係を築くスキルが求められます。とくに建設業界などの特定分野では、ベンダー管理と調達(プロキュアメント)の成否が、プロジェクト全体の成功を決定づける中核的な要因になるとされています。

外部の会社を「発注先」としてだけ見るか、成果を左右するステークホルダーとして見るか。この捉え方の違いは、日々のやり取りにそのまま表れてくるはずです。

まとめ

ステークホルダー領域の6つのキーコンセプトを見てきました。

エンゲージメント、満足度、チーム、コミュニケーション、データ駆動型の意思決定、そしてベンダー管理。並べてみると、社外の関係者だけでなく、スポンサー・チーム・外部パートナーまでを含めた広い範囲が「ステークホルダー」として扱われていることが分かります。

中でも、アクティブなスポンサーの存在が決定的な成功要因として明示されている点は、押さえておきたいところです。プロジェクトが動かなくなったとき、原因を現場の頑張り不足に求める前に、判断できる立場の人がきちんと関与できているかを見直してみると、突破口が見つかることがあるかもしれません。

1 Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.5.1(68-69頁)より要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。
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