VUCA時代に必要な「没入体験から学ぶ力」とは?ボブ・ヨハンセンが提唱する9つの学習手法
変化が激しく、将来の予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代。
これまでの常識や過去のデータ分析だけでは、未来を読み解くことは難しくなっています。
そんな不確実な世界を生き抜くリーダーに必要なスキルとして、未来学者のボブ・ヨハンセン(Bob Johansen)氏が提唱しているのが、「没入体験から学ぶ力(Immersive Learning)」です。
今回は、この「没入体験から学ぶ力」の定義と、実践するための9つの具体的な手法について解説します。
「没入体験から学ぶ力」の定義
ボブ・ヨハンセンは「没入体験から学ぶ力」を以下のように定義しています[1]ボブ・ヨハンセン (著)、鹿野和彦 (監訳)、伊藤裕一 (訳)、田中良知 (訳)『未来を創るリーダー10のスキル … Continue reading。
没入体験から学ぶということは、普段慣れ親しんでいる世界とは異なる仮想世界に身を投じ、実体験と同じ状況で学ぶことを意味する。
つまり、安全地帯からデータや報告書を眺めるのではなく、自らが未知の環境やシミュレーションの中に飛び込み、当事者として「体感」することで、直感や洞察力を養う学習スタイルのことです。
具体的な9つの手法(学習のアプローチ)
予測不能なVUCAの時代では、疑似体験を通じて「主体的に観察する力」「聴く力」「選別する力」を向上させることが大切です。
では、その学習方法にはどのような手法があるのでしょうか?
ここからは、ボブ・ヨハンセンが紹介している9つの手法を紹介していきます[2]『未来を創るリーダー10のスキル』132~137頁。。
- 現実のシミュレーション 現実世界のモデル化。ただし、現実を完璧に再現するのは困難であるため、あくまで近似値として活用する。
- 代替現実ゲーム(ARG) 現実世界と仮想空間を融合させ、多数のプレイヤーが協力して問題を解決するゲーム。参加者が「本気」になって取り組むことで学習効果が高まる。
- 三次元擬似体験環境(例:セカンドライフ) アバターを用いて仮想世界に入り込む。自閉症の若者が社会スキルを練習する場としても機能するなど、安全な学習環境を提供する。
- ロールプレイ・シミュレーションゲーム 現実で起こりうる出来事を題材に、双方向で行うゲーム。瞬時の判断力や対応力を養う。
- 擬似体験型シナリオ 未来の物語を、単なる予測レポートとして読むのではなく、「一人称の視点」で感情移入できる物語として体験する。
- 逆メンタリング(リバース・メンタリング) 通常とは逆に、若手が年長者を指導したり、男性が女性管理職の立場を疑似体験したりする手法。他者の視点を深く理解するために有効。
- 限定的擬似体験(エスノグラフィー) 文化人類学の調査のように、異なる環境やコミュニティに一定期間入り込み、観察・生活することで、対象の行動様式を肌感覚で理解する。
- 即興劇(インプロ) 役者が学習者の前で未来のシナリオ(例:未来の消費者の行動)を演じ、学習者がその場に巻き込まれることで、リアリティのある体験を得る。
- 擬似体験ケーススタディ 従来の「読む」ケーススタディではなく、実際に現場へ赴いたり(例:UPSの地域奉仕活動)、当事者意識を持たせる体験型の事例学習。
これらの手法は、各業界ですでに取り入れられているものも少なくありません。
たとえば、「現実のシミュレーション」の手法は、軍事や防災の分野で図上演習としてすでに実施されているものです。
また、ロールプレイは、新人研修でお客様対応を学ぶときなどに使われています。
まとめ:安全地帯を飛び出し、未来を「体感」しよう
今回は、ボブ・ヨハンセンが提唱する「没入体験から学ぶ力」とその手法について解説しました。
従来のリーダーシップ学習は、過去の成功事例(ケーススタディ)を分析することが中心でした。しかし、前例のない変化が続く現代において、過去のデータは必ずしも役に立ちません。
必要なのは、「未来の可能性」の中に自ら飛び込み、当事者としてその世界を肌で感じること(身体感覚)です。
- ゲームの世界で失敗を恐れずに挑戦する。
- 自分とは異なる世代や文化の中に身を置いてみる。
- シミュレーションで「もしも」の世界を体験する。
こうした「没入体験」を通じて得られる直感や共感こそが、不確実な未来を切り拓くリーダーの羅針盤となるはずです。
まずは、普段の慣れ親しんだ環境から一歩踏み出し、新しい世界に「ダイブ」してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

