「いくら最新の開発ツールを導入しても、チームの生産性が上がらない」
「失敗が起きると、いつも犯人探しで終わってしまう」
こうした悩みの根本原因は、ツールやプロセスの問題ではなく、組織の「文化」にあるのかもしれません。
『LeanとDevOpsの科学』において、開発組織のパフォーマンスを予測する極めて重要な要素として位置づけられているのが「組織文化」です。
今回は、目に見えない文化を科学的に評価するために本書が採用した、米国の社会学者ロン・ウェストラム氏が提唱する「Westrum(ウェストラム)の組織文化モデル」について解説します[1]ニコル・フォズグレン、ジェズ・ハンブル、ジーン・キム(著)、武舎広幸、武舎るみ(訳)『LeanとDevOpsの科学』インプレス、2018年、37頁~47頁。。
情報の流れで決まる「3つの組織文化」
ウェストラム氏は、航空や医療といった「高リスクかつ複雑なテクノロジー領域」の安全性を研究する中で、組織文化を「情報の流れ(伝達のされ方)」に着目して3つのタイプに分類しました。
| 評価項目 | 不健全な組織(権力志向) | 官僚的な組織(ルール志向) | 創造的な組織(成果志向) |
|---|---|---|---|
| 協力態勢 | 悪い | ほどほど | 確立されている |
| 情報伝達 | 遮断される | 重視される(ルール優先) | 熱心に行われる |
| 責任範囲 | 回避・転嫁される | 狭い(自分の縄張りのみ) | 共有される(リスクの共有) |
| 部門間の連携 | 仲介が阻止される | 仲介が許容される | 協調が推奨・奨励される |
| 失敗への対処 | 犯人探し・処罰される | 裁きが行われる | 徹底的に調査・改善される |
| 新しいアイデア | 潰される | 問題視される | 実装(歓迎)される |
3つのタイプの特徴

- 不健全な(権力志向の)組織
恐怖や脅威が支配する環境です。情報は個人の権力維持のために隠蔽され、失敗が起きると「誰のせいか」という犯人探しと責任転嫁が始まります。 - 官僚的な(ルール志向の)組織
部署ごとの「縄張り」やルールの遵守を最優先します。情報はルールに従ってのみ伝達され、失敗に対しては「ルール違反に対する裁き(処罰)」で対処します。 - 創造的な(パフォーマンス志向の)組織
組織の使命やパフォーマンスの最大化に焦点を当てます。高い信頼関係のもとで情報がオープンに共有され、失敗は個人を責めるのではなく「システム改善の貴重な機会」として扱われます。
自組織の文化を測る「6つの質問」
本書では、「リッカート尺度(全く同意できない〜強く同意できるの7段階)」を用いて、以下の6つの質問に答えることで組織文化を数値化・測定しています。
- 情報を積極的に収集している
- 失敗すると罰せられ、良くないニュースを知らせても喜ばれない(※不健全さを測る逆質問)
- 部署の垣根を越えた協調が推奨・奨励されている
- 失敗があれば、原因の調査が行われる
- 新しいアイデアが歓迎される
- 失敗がまず「システム改善の機会」と受け取られる
あなたのチームのメンバーは、これらの質問に「強く同意できる」と答えてくれるでしょうか?
創造的な文化がもたらす「圧倒的な成果」
本書の厳密な統計分析により、「創造的な(パフォーマンス志向の)組織文化」を持つことには、強力なメリットがあることが立証されています。
- デリバリと組織業績の向上: 情報の伝達がスムーズで意思決定の質が高いため、開発のスピードと安定性が高まります。結果として、企業の「収益性・生産性・市場シェア」の向上に直結します。
- 従業員の職務満足度の向上: 信頼に基づくオープンな環境は、従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)を軽減し、仕事に対する誇りや満足度を劇的に高めます。
なぜ現代の開発組織にWestrumモデルが必要なのか?
最後に、本書がDevOpsの実践においてこのWestrumモデルを強く推している3つの理由をまとめます。
安全性の科学がIT領域にそのまま適用できるから
現代のITシステムは、航空や医療と同様に「複雑で予期せぬ障害と隣り合わせの高リスク環境」です。安全と生産性を両立させるWestrumモデルのメカニズムは、現代のソフトウェア開発に完璧に合致することがデータで証明されました。
Googleが提唱する「心理的安全性」と一致するから
Googleの有名な研究(プロジェクト・アリストテレス)でも、優秀なチームの最大の共通点は「心理的安全性(メンバー同士がいかに協力し、恐れずに発言できるか)」であると結論づけられています。Westrumモデルはこの「チームの心理的安全性」を美しく体現しています。
心理的安全性について、詳しくは下記の記事もご参照ください。

「ヒューマンエラー(失敗)」への向き合い方を変えるため
複雑なITシステムにおいて、障害の原因を「1人の担当者の不注意」として片付け、個人を処罰することは全くの無意味です。
創造的な組織は、ヒューマンエラーを「なぜその情報が伝わらなかったのか?」「システムをどう改善すれば人間をサポートできたのか?」を解明するための「調査の出発点」として捉えます。
まとめ
DevOpsやアジャイルの真の目的は、ツールの導入ではなく「情報の流れを良くし、継続的に学習する組織を作ること」です。
犯人探しやルールのためのルール(官僚主義)を脱却し、失敗をシステム改善の糧とする「創造的な組織文化」を目指して、まずは自分のチームの情報の流れを見直してみませんか。
注
| ↑1 | ニコル・フォズグレン、ジェズ・ハンブル、ジーン・キム(著)、武舎広幸、武舎るみ(訳)『LeanとDevOpsの科学』インプレス、2018年、37頁~47頁。 |
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