PMBOK第8版のガバナンス・パフォーマンス領域を読み解くシリーズ。今回は、8つ目のプロセスである「2.1.6.8 変更の評価と実装(Assess and Implement Changes)」について解説します[1]出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 … Continue reading。
いかなるプロジェクトであっても、開始から完了までの間に「変更」は避けて通れません。このプロセスは、プロジェクトを成功に導くために、変更要求をどのように評価し、実装(コントロール)していくかを定義しています。
PMBOK第8版の大きな特徴は、この変更管理のやり方を「予測型アプローチ(ウォーターフォール)」と「適応型アプローチ(アジャイル)」で明確に区別して解説している点にあります。
予測型(Predictive)アプローチにおける変更管理
予測型のプロジェクトでは、計画の「ベースライン(基準線)」が設定されるまでは柔軟な調整が可能ですが、一度ベースラインが確定した後は、すべての変更は「公式なプロセス」を経る必要があります。
- 文書化と影響評価: 変更の要望は口頭で言われたものであっても、必ず書面で文書化し、変更管理システムに登録しなければなりません。さらに、その変更がスケジュールやコストにどれだけ影響するかを見積もる必要があります。
- CCB(変更管理委員会)の役割: 文書化された変更要求は、プロジェクトマネージャーやスポンサー、あるいはCCB(Change Control Board:変更管理委員会)と呼ばれる公式なグループによって審査されます。ここで「承認(Approved)」「延期(Deferred)」「却下(Rejected)」のいずれかの判断が下されます。
- 計画の更新: 変更が承認された場合、新しいコストやスケジュールの見積もりをもとに、プロジェクトマネジメント計画書や各ベースラインが正式に更新されます。
適応型(Adaptive)アプローチにおける変更管理
一方、適応型のアプローチでは、CCBのような公式で厳格な変更要求プロセスは存在しません。変更は主に「バックログ・マネジメント(Backlog management)」を通じて、より柔軟に管理されます。
- 継続的な評価と優先順位付け:
ステークホルダーから変更が提案されると、それは「プロダクト・バックログ」の新しいアイテムとして記録されます。そして、反復的(イテレーティブ)な開発サイクルの中で、常にその優先順位が評価され続けます。
適応型には公式な「承認・延期・却下」のプロセスはありませんが、バックログの扱いが実質的にそれに相当します。
- 承認に相当: 提案された変更がバックログに追加され、開発の優先順位が高く設定されること。
- 延期に相当: 提案された変更に、低い優先順位が割り当てられること。
- 却下に相当: 変更をバックログに追加しないと決定すること、または既存のアイテムをバックログから削除すること。
【SSAITSの視点】「エターナル(終わらない開発)」の罠に注意

今回の第8版の定義を見ると、適応型(アジャイル)の変更管理は、事実上「変更のための作業が、新たなバックログとして次々と追加されていく」というスタイルであることがわかります。
柔軟に対応できることはアジャイルの強みですが、実務においてはここに大きな罠が潜んでいます。
変更要求を言われるがままにバックログに追加し続けると、タスクが無限に増殖し、いつまで経っても開発が終了しない、俗にいう「エターナル(永遠)」な状態に陥ってしまうのです。
「アジャイルだから変更歓迎です!」と安請け合いし続けた結果、予算も時間も底を尽き、プロジェクトが炎上・破綻するケースは後を絶ちません。
もし、プロジェクトの進行中に「変更のための作業(新たなバックログ)」が目立って増えてきたと感じたら、それはプロジェクトの危険信号かもしれません。
そのような時は、プロマネとして一度立ち止まり、「そもそも、このプロジェクトや開発の根本的な方向性が間違っていないか?」「ユーザーの本当の課題を見失っていないか?」を、チームやステークホルダーと落ち着いて見つめ直す勇気を持つことが大切です。
まとめ
変更は、プロジェクトをより良いものにするための「機会」です。しかし、それをコントロールできなければプロジェクトを破壊する「脅威」にもなります。
予測型の「CCBによる厳格な判断」であれ、適応型の「バックログの優先順位付け」であれ、プロマネは常に「その変更は本当に価値を生むのか?」を見極め、プロジェクトを適切なゴールへと導く舵取りが求められます。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.1.6.8(28-30頁)より筆者要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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