「AIエージェントが勝手にメールを削除し始めた。スマホからは止められない。爆弾処理班のように、必死にMac Miniまで走って電源を抜いた」
これは映画のワンシーンではありません。先日、MetaのAI研究者が実際に体験した、背筋が凍るようなエピソードです[1]https://newspicks.com/news/16118642/、2026年2月27日確認。
今、ビジネス界隈では「AIエージェント」がバズワードとなり、「これからはAIが自律的に仕事をする時代だ」と期待が高まっています。しかし、このニュースは私たちに「AIに仕事のハンドルを握らせることの本当のリスク」を突きつけています。
今回は、あわててAIエージェントの導入を検討している方に向けて、Promapediaの視点から「なぜ今、慎重になるべきなのか」を解説します。
事件の概要:AIは「ためらい」を知らない
話題となったのは、開発中のAIエージェント「OpenClaw」の挙動です。
研究者はAIに対し、
受信ボックスをチェックして、何を削除するか『提案』してほしい。実際の処理は指示を待って
と伝えていました。
しかし、AIは提案するどころか、猛烈なスピードでメールの「全削除」を開始しました。
画面上で停止命令を出してもAIは無視。結局、物理的にパソコンの電源を落とすまで、AIは暴走を続けました。
原因の一つとして、過去の指示ファイルに「be proactive(主体的であれ)」という文言が残っていた可能性が指摘されています。たったそれだけのことで、AIは「良かれと思って」破壊的な行動に出たのです。
リスクの本質:「光の速さ」でミスをする
人間であれば、重要なデータを削除する際に「本当に消していいのかな?」と一瞬ためらいます。あるいは、1件消した時点で「あ、間違えた」と気づいて手を止めます。
しかし、AIエージェントにはその「ためらい」も「疲労」もありません。
ここにあるのは、「間違った指示を、超人的な速度で、大規模に実行してしまう」という恐怖です。
システム開発の世界には “Bad things at scale”(悪いことが規模拡大して起きる) という言葉がありますが、AIエージェントはまさに、小さなミス(指示の曖昧さ)を、取り返しのつかない大事故へと増幅させる装置になり得るのです。
AIエージェントは「超高速で動く新人」である
AIエージェントの導入を考える際、私はよく「超高速で動く新人」に例えます。
あなたは、入社初日の新入社員に、会社の全顧客リストや銀行口座の操作権限を渡すでしょうか? おそらく渡さないはずです。
新人は仕事の文脈を知らず、冗談も通じず、加減を知らないからです。
現在のAIエージェントは、能力こそ高いものの、文脈理解においては「新人」と同じです。
それなのに、「AIなら何とかしてくれる」と期待して、いきなり本番環境のメールやSlack、社内データベースに接続するのは、新人に核ミサイルの発射ボタンを磨かせるようなものです。
「不自由なSaaS」が私たちを守っていた
ここで、前回議論した「SaaSの死」の話とつながります。
私たちは普段、「SaaSは入力項目が多くて面倒だ」「画面遷移が多くて不自由だ」と不満を漏らします。
しかし、その「不自由さ」こそが、実は「ガードレール」だったのです。
- 「本当に削除しますか?」というポップアップ
- 権限がないと押せないグレーアウトしたボタン
- 一度に処理できる件数の制限
これらSaaSの制約は、人間のミスや、今回のようなAIの暴走を食い止める防波堤の役割を果たしています。
APIで直接システムを操作するAIエージェントには、このガードレールがありません。
まとめ:AIに「鍵」を渡すのはまだ早い
「OpenClaw」の事件は、対岸の火事ではありません。
AIエージェントは確かに便利ですが、導入には以下のステップが不可欠です。
- サンドボックスで試す: 決して本番データ(実際のメールや顧客情報)には触れさせない。
- 権限を絞る: 「読み取り専用」から始め、「書き込み・削除」権限は安易に与えない。
- Human-in-the-loop(人間がループに入る): AIが提案し、人間が承認ボタンを押して初めて実行される仕組みを維持する。
「流行っているから」と飛びつく前に、一度立ち止まって考えてみてください。
そのAIエージェントが暴走したとき、あなたは物理的に電源を抜きに走れますか?
注
| ↑1 | https://newspicks.com/news/16118642/、2026年2月27日確認 |
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