中年危機を救ってくれる一冊の本。ドリアン助川『あん』が教えてくれた、人生の「囲い」の外し方

ドリアン助川『あん』

2026年はまだ始まったばかりですが、今年のベストに間違いなく入る本に出会いました。
それがドリアン助川さんの『あん』です。

『あん』の中には、私が2025年に読んだ本から学んだすべてのことが書かれていました。
今回は私の体験と絡めて、『あん』と中年危機についてお話していきます。

目次
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中年危機(ミッドライフ・クライシス)とは?

誰にでも訪れる中年危機

誰にでも訪れる中年危機

中年危機(ミッドライフ・クライシス)という言葉をご存知でしょうか?
実は、私自身がその渦中にいたことに、最近気づかされました。
名前のとおりで、中年に訪れる危機のことです。

若いころはなりたかった自分があり、その目標に向かって邁進します。
しかし、人生半ば、そう、私のような四十くらいになると、だんだんとなりたかった自分にはなれないことに気が付きます。
あるいは、なりたいものになれたのに、思ったような幸福感は得られなかったということも、危機の引き金になります。
定義が難しいですが、こういう状況を中年危機と呼ぶらしいです。

私の中年危機

ふりかえれば、私も中年危機を迎えていました。
私は35歳の時に独立し、フリーランスのWebディレクター / プロジェクトマネージャーになります。

自分が体得した技術を使えば、もっと多くの人に喜んでもらえて、自分もお金を稼げるのではないのか?

このように勇んで独立した人間の9割はうまくいかず、廃業するらしいのですが、私は運がいい人間なので、なぜか独立後にポンポンっと大きな仕事が舞い込みました。

会社員時代は

誰にも邪魔されずにプロジェクトを回して、案件のお金をすべて自分の懐に入れられたらさぞ楽しいだろう!


と思っていたのですが、いざそれが実現すると、大して面白くもなんともないことに気が付きました。
2022年ごろから、ずっと仕事に情熱が持てず、舞い込んでくる仕事をただ淡々とこなす日々が続きました。
「こんな生活だったら、べつにサラリーマンでもかわんないんじゃないか?」
そんなことを考えながら、仕事を続けていました。

千太郎の中年危機

千太郎の中年危機

『あん』の主人公である辻井千太郎も中年危機を迎えた人間です。
もともと物書きになりたかったのになれず、麻薬取引の片棒を担ぎ刑務所に送られ、出所後は冴えないたい焼き屋をしている。
「これでいいのか?」と思う気持ちを殺しながら、酒に逃げる日々。

千太郎と徳江

こうした千太郎の人生が変わり始めるのは、突然たい焼き屋のアルバイトに応募しに来た老婆・徳江に出会ってからです。
徳江はどこで体得したのか、甘いものが苦手な千太郎もうなるあんこを作ります。
はじめ、徳江はあんこだけを作ってもらうはずが、とあるきっかけで店頭にも顔を出すようになりました。
千太郎のたい焼き屋は大繁盛。しかし、これからという時に、徳江は急にお店を去ることになります。

退店後も、千太郎と徳江の交流は続きます。
とくに千太郎にとって重要だったのが、徳江が去った後のあんづくりをどうするか、そして売上をアップさせるために、自分のたい焼きをどうしていくかということ。

そのたい焼きへの思いや、自分自身の半生の後悔を手紙で徳江にぶつけます。
徳江もその思いに応え、精一杯の気持ちで千太郎にエールを送ります。

『あん』と万物斉同

千太郎が見た夢

自分のたい焼きがつくれずもんもんとする中、ある日、千太郎は夢を見ます。
川が流れる丘陵地に立っていて、山の斜面を桜の木が覆っている。

その時の千太郎の感情を引用してみましょう。

千太郎は桜が連なる場所まで駆け上がった。そこはまさに輝く淵を作るかのように、満開の桜で囲まれていた。千太郎はそのなかに入り、それぞれの桜に見蕩れながらぐるりと首を回した。木の中で静かに眠る感情が、年に一度歓喜となって噴出するのが今であることを千太郎は実感した。混じりけ気のない歓びこそが花なのだった。

千太郎が見た夢

とても幻想的なシーンです。
そして、千太郎が感じたこの感情こそが、『あん』でドリアン助川さんが伝えたかったことなのだと思います。
このシーンの中で、千太郎は桜と一体になっています。
「桜がある」「花が舞っている」「それを私が見ている」と区分するのではなく、「歓びこそが花なのだ」という境地に至っています。
つまり、歓びを感じて花になっている私は、桜と同じなのです。

ドリアン助川さんの体験

ドリアン助川さんの体験

この千太郎の感覚はドリアン助川さんの実体験を基にしているとおもわれます。
玄侑宗久さんの『荘子と遊ぶ』の解説をドリアン助川さんが書いています。その中で、ドリアン助川さんの不思議な体験が語られています。

40歳、無職。人生に行き詰ったドリアン助川さんは、多摩川を見ながらこう思ったそうです。

経済的に潤う未来はもうないと知った私は、川原から町を眺めながら、ひとつの覚悟を決めました。それは、なにも所有しない、所有のために努力することもしないという決心です。その代わり、地を這う者として、この世をひたすら感受しようと思ったのです。

所有の概念を捨てたときから、すべての事物との境界や壁が消え去りました。私と事物との間にあるのは「今そこにある関係」だけです。どんな金持ちも多摩川を買うことはできませんが、無一文の私にも、ただ感受するだけで多摩川は関係を持ってくれます。川原で咲く花々は誰のものでもありませんが、眺めているときは私のものなのです。

これがドリアン助川さんが行き着いた答えであり、千太郎が夢で体験した感覚でした。
そして、あん作りの達人の徳江も、月を見ている時に同じ体験をしていたことが後からわかります。

ドリアン助川さんや千太郎の行きついた境地は、荘子の「万物斉同」の発想、つまり「事物はすべてひとしい」という思想に通じるものがあります。

さまざまな「隔たり」

この『あん』という物語は、「囲い」や「隔たり」が一つのテーマになっています。
「お客」と「私」。シャッター。塀。施設を隔離するように植えられている柊。病気を持つ人と持たない人。
こうしたものが私たちを囲っているように見えます。
しかし、そこには実際に囲いや隔たりなどなく、仕切りをつくっているのが自分であることに気づくというのが、『あん』という物語です。

中年危機からの脱出

中年危機からの脱出は簡単なことではないと思いますが、その手がかりの一つが、自分がつくった仕切りを取り外すことではないでしょうか。

中年危機からの脱出

千太郎は徳江と出会い、「仕事にこんなに精を出す必要があるのか」「お客となかよくしていいのか」という心の塀を、少しずつ取り払っていきます。
そうして心の塀を取り払うことは、「自分は本当に何がしたいのか」という心の声を聞くことになります。
そして心の声に導かれて、物語の序盤では惰性でやっていたたい焼きに情熱を注ぐようになります。

さいごに:私の話

私も、この千太郎と同じ体験をしました。
仕事に情熱を向けられなかった期間、したいことが何もなかったわけではありません。
「地域情報サイトをつくったら面白いだろうな」「子どもにクリエイティブを教えたら面白いだろうな」
そう考えることはありましたが、実際に行動に移すことはありませんでした。
「でも、収益がでないだろうしな」「お金にならないことをフリーランスがやるべきではないだろうな」
そういう思いから、腰が上がらなかったのです。
しかし、私は玄侑宗久さんの『荘子と遊ぶ』や原典である『荘子』を読み、塀を作っているのが自分だと気づいたのです。
そして、ある日決心しました。

お金になるかどうかはわからないけど、やりたいことをやろう。それを止めるのは自分自身しかいないのだから

本当に私の人生は不思議なもので、そう決心した数日後、
「Promapediaを読んで、PMPに受かりました!」
というメッセージとともに、なぜか私のnoteに投げ銭が届きました(笑)
何か自分の進む路に対して「そっちが正解だぞ!」と言ってくれているようですし、「今の時代、何がお金になるかわからないから、考えるのは無駄だぞ!」と言われているようでもありました。

ともあれ、私も2025年に中年危機を脱し、再び気力を充実させて仕事に臨んでいます。
2026年のはじめに『あん』を読んだ時、「自分のことだ!」ととても驚き、一気に読んでしまいました。
もっと早くに読んでいればと思う一方で、これまでの苦悩があったからこそ、この本が染みたのかもしれません。
中年危機を迎えられている人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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さきほどお話した活動ですが、現在青梅の情報を発信する「baigo.fun」、子どもたちの無料の教室「あつまラボ」として実を結んでいます。
東京の西の果て、青梅とははなれていらっしゃる読者さんがほとんどだと思いますが、ぜひ一度Webサイトに足を運んでもらえればうれしいです。

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