プロジェクトの「資源(リソース)」は人だけではない
プロジェクトマネジメントにおいて「資源(リソース)が足りない!」という言葉を耳にしたとき、皆さんは真っ先に何を思い浮かべるでしょうか。多くの人が「エンジニアの数が足りない」「デザイナーの手が空いていない」といった「人」の問題を連想するはずです。
しかし、現代のプロジェクトにおいて資源とは人だけにとどまりません。サーバーや機材といった物理的なものから、ソフトウェアのライセンス、クラウド上のテスト環境といった「バーチャル資源」まで、プロジェクトを遂行するために必要なすべての要素が含まれます。
今回は、PMBOK第8版から「資源パフォーマンス領域(Resources Performance Domain)」の基本となる4つのキーコンセプトを解説します[1]Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第2部 2.6 および … Continue reading。
単なる「チームメンバーの動かし方」にとどまらない、現代の複雑なプロジェクト形態(マトリクス組織やハイブリッド環境)を乗り切るためのリアルな視点を見ていきましょう。
PMBOK第8版における資源領域の4つのキーコンセプト

資源を効果的かつ効率的に活用するために、PMBOK第8版では以下の4つの重要な概念(役割と資源分類)を定義しています。
プロジェクト・マネジャー(チームのリーダー)
プロジェクト・マネジャーは、「チームの結成」および「効果的なグループとしての運営」に責任を持ちます。
単にタスクを割り振るだけでなく、チームを獲得し、動機付け、権限を付与するために適切な努力を投資します。また、メンバーの地理的位置(リモートワークなど)、ステークホルダー間の政治的課題、組織変更といった、チームのパフォーマンスに影響を与える多様な「環境要因」を敏感に察知し、コントロールする役割が求められます。
資源マネジャー(資源の管理権限を持つ人)
資源マネジャーとは、人員や設備などに対して「管理権限を持つ個人」のことです。
実務において、プロジェクト・マネジャーがメンバーや資源を完全に自由に選べることは稀です。多くの場合、この資源マネジャー(または各機能部門のマネージャー)からの割り当てを受けたり、外部の協力会社から調達したりする必要があります。
人的資源(プロジェクト・チーム・メンバー)
共有の目的を達成するために協働する、割り当てられた役割と責任を持つ個人です。
PMBOKでは、メンバー自身を計画策定や意思決定プロセスに関与させ、専門知識を注入してもらうことで、プロジェクトに対する「コミットメント(主体的な当事者意識)」が劇的に強化されるとしています。また、チームの導き方として、トップダウン型の「集権型」と、メンバーが自律的に動く「分散型(自己組織化チーム)」の2つのアプローチが示されています。
物理的、物質的、またはバーチャル資源
「人以外のすべての資源」を指す包括的な概念です。
設備、資材、ソフトウェア、テスト環境、ライセンスなどがここに含まれます。とくに近年はバーチャル資源の重要性が増しており、これらを必要なタイミングで確保するための「需要と供給のデータ管理」や、複雑な「調達活動計画」が不可欠となっています。
プロジェクトの命運を握る「資源マネジャー」の存在

さて、今回定義された4つのコンセプトの中で、実務において私たちが最も注目すべきなのが「資源マネジャー」の存在です。
実は過去のPMBOKでも、「機能部門マネジャー」などの名称で資源調達の交渉相手として言及されてはいました。しかし、今回の第8版において、プロジェクト・マネジャーやチームメンバーと並ぶ「重要な柱の一つ」として明確に独立・定義されたことは、非常に大きな意味を持っています。
プロジェクトマネージャーとして現場で仕事をしていると、この「資源マネジャー」という存在がいかに重要であるか、そして高い壁であるかを痛感します。
多くの日本企業が採用している「マトリクス組織」において、エンジニアなどのメンバーは通常、開発部などの「部門(機能部門)」に所属しています。プロジェクト・マネジャーが「あの優秀なAさんにプロジェクトに入ってほしい」と思っても、Aさんの上司である部門長(資源マネジャー)の了承を得なければ、Aさんをアサインすることはできません。
また、必要なテスト用サーバーの利用権限や、有料ツールのライセンス枠の割り当ても、それを管理している資源マネジャーを通じてでなければコントロールできないことが多々あります。
実践ステップ:社内の「人脈」も重要なマネジメント
「プロジェクトの計画は完璧なのに、必要な人がアサインされずにスケジュールが遅壊した」
これは、PMが資源マネジャーとの交渉に失敗した典型的な例です。
資源マネジャーは、限られた社内のリソースを複数のプロジェクトにどう分配するか、常に頭を悩ませています。彼らから優先的に資源を引き出すためには、単に「計画書通りに人をください」と要求するだけでは不十分です。
- 日頃から各部門のマネージャーとコミュニケーションを取り、彼らの部門が抱えている課題や目標を理解する。
- 自分のプロジェクトが組織にとってどれほど重要かを説得力を持って説明する。
- 資源を貸してもらう代わりに、メンバーのスキルアップ等のメリットを提示する。
このように、資源マネジャーとの関係構築は、外部の顧客に対する「ステークホルダー・マネジメント」と全く同じか、それ以上に重要な活動になります。
まとめ:資源確保は「交渉」から始まっている
PMBOK第8版のキーコンセプトが示しているのは、「現代のプロジェクトにおいて、資源はあなたの思い通りにはならない」という現実です。
バーチャル環境やソフトウェアライセンスの複雑な管理が必要になり、人のアサインには「資源マネジャー」という強力な権限を持つキーパーソンの存在が立ちはだかります。
だからこそ、PMにはタスクを引くスキルだけでなく、関係各所との「交渉力」や「関係構築力」が強く求められるのです。
もし次に新しいプロジェクトを立ち上げる際は、スケジュールを引く前に「このプロジェクトの資源マネジャーは誰か?」を特定し、彼らとの関係構築からスタートしてみてください。その事前準備が、プロジェクトの実行スピードを大きく左右するはずです。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第2部 2.6 および 2.6.1(341-342頁)、第4章(361-362頁、366頁)より要約。 |
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