PMBOK第8版の「スケジュール・パフォーマンス領域」を読み解くシリーズ。今回は、プロジェクトの遅延リスクからタイムラインを守るための「スケジュールバッファ(予備)」について解説します。
プロジェクトにおいて「予定通りに何もかもうまくいく」ことはあり得ません。そのため、不確実性に対する「回復力(レジリエンス)」としてバッファ(予備)を計画に組み込むことは、PMBOKでも中核的な要素として位置づけられています。
スケジュール予備の「2大分類」

PMBOKでは、リスクの性質(予測できるか・できないか)に応じて、主に以下の2種類の予備を定義・区別しています。
① コンティンジェンシー予備(Contingency Reserve / 偶発性予備)
- 対象:既知の未知(known-unknowns)
事前に「こういうリスクが起こるかもしれない」と特定・予測できているリスクに対して割り当てる予備です。 - 特徴: 例えば「新しいツールの導入だから、手戻り(リワーク)が発生するだろう」と見越して確保する時間です。この予備は「スケジュール・ベースライン(基準線)の中」に含まれ、プロジェクトマネージャーの裁量で管理します。
② マネジメント予備(Management Reserve / 管理予備)
- 対象:未知の未知(unknown-unknowns)
事前に特定が不可能な、全くの想定外の事態(パンデミックや天災、予期せぬ仕様の根本的見直しなど)に対して確保される予備です。 - 特徴: この予備は「スケジュール・ベースラインの外側」に設定されます(進捗測定の基準には含めません)。通常、プロジェクトマネージャーの一存ではなく、上層部(スポンサーなど)の承認を得てから使用(リリース)されます。
【SSAITSの視点】バッファが引き起こす「学生症候群」の罠

PMBOKが示すように、プロジェクトにバッファを組み込むことは必須です。しかし、実務の現場では、この「スケジュールバッファ」という存在がプロマネを激しく悩ませます。
なぜなら、各担当者のタスクにそれぞれ「余裕(バッファ)」を持たせると、往々にして「学生症候群(Student Syndrome)」を引き起こすからです。
学生症候群とは、「夏休みの宿題の締め切りはまだ先だから、ギリギリになってからやればいいや」と、余裕がある分だけ着手を遅らせてしまう心理的な罠です。
「このタスクは本当は3日で終わるけど、バッファを積んで5日もらっている。だから3日目から始めよう」という行動がチーム内に蔓延すると、せっかく確保したバッファはただの「無駄な待機時間」として消化され、結局少しのトラブルでスケジュールが遅延してしまいます。
かといって、一切のバッファを持たせないスケジュールは、一度のトラブルで崩壊する非現実的なものになってしまいます。
個別バッファを廃止し「全体バッファ」で守る
このジレンマを解決するための強力なアプローチが、PMBOKの解説にも登場する「クリティカル・チェーン法(CCPM)」です。
名著『クリティカルチェーン(エリヤフ・ゴールドラット著)』で提唱されたこの手法の核心は、「個別のタスクからはバッファを完全に剥ぎ取り、プロジェクトの最後に『全体バッファ(プロジェクト・バッファ)』として一括管理する」という考え方です。
私もスケジュールを作成する際は、この手法を強く意識しています。
- タスクに余裕を持たせない: 各メンバーには、バッファ抜きの「最短で終わるギリギリの工数」でスケジュールを提示し、学生症候群を排除します(心構えとして、バッファがないつもりで全力で取り組んでもらいます)。
- 最後にバッファを固める: 個別タスクから剥ぎ取ったバッファを合算し、スケジュールの最終段(納品前)に「プロジェクト・バッファ」としてドカンと置きます。
- PMが采配する: メンバーのタスクが遅延した時だけ、PMが全体バッファから必要な日数を切り崩して割り当て、全体を調整します。
まとめ
バッファ(予備)は、プロジェクトを守るための命綱です。
- 予測できるリスク(コンティンジェンシー)と想定外(マネジメント)を分けて管理する。
- 各人にバッファを持たせると「学生症候群」で食いつぶされる。
- 個別タスクの余裕は削り、プロジェクト全体の「大きなバッファ」としてPMが一括で管理・采配する。
人間の心理(怠け心や油断)を理解した上でバッファを戦略的に配置・秘匿し、プロジェクトを安全にコントロールしていきましょう。


