「あの人を使いたい」が通らない時代のプロジェクトマネジメント
「今回の新規プロジェクトには、どうしてもあの優秀なエンジニアが必要だ」
「この部分は自社で賄えないから、外部の優秀なフリーランスに手伝ってもらおう」
プロジェクトを立ち上げる際、このように頭の中で理想のチーム編成を思い描くことはよくあります。しかし、いざそれを実現しようとすると、「彼の上司が首を縦に振らない」「管理部門から外部発注の予算が下りない」といった大きな壁にぶつかり、計画が頓挫してしまうことは珍しくありません。
現代のプロジェクトマネージャー(PM)は、必要な人や環境を「自分の権限だけで自由に集めること」が極めて困難な状況に置かれています。
PMBOK第8版では、こうした「PMが資源を直接コントロールできない制約下にいる」という現代のリアルな状況を真っ向から受け止め、「資源マネジャー(Resource Manager)」という中核的な役割を新たに定義しました[1]Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第1部 2.4.7(204頁)および 第2部 … Continue reading。
今回は、この新用語の定義と、実務において私たちが彼らとどう向き合うべきかを解説します。
PMBOK第8版における「資源マネジャー」の定義
PMBOK第8版において、資源マネジャーとは「1人または複数の資源(人員、設備、専門知識など)に対して、直接的な管理権限(組織上のライン権限)を持つ個人」と定義されています。
プロジェクトの要求を満たすために適切な人員や機器を評価し、プロジェクトチームへ割り当てる(アサインする)決定権を持つ、リソース提供の責任者です。
従来の「部門マネジャー」からの進化
過去のPMBOKでも、「部門マネジャー(Functional Manager)」という言葉で、開発部長や営業部長といった「組織の縦割りの長」から人を借りる概念は存在していました。
しかし、今回「資源マネジャー」としてより包括的な名称に進化し、PMと同格のキーパーソンとして明示されたのには理由があります。
現代のプロジェクトでは、必要な資源が「特定の部門にいる社内の人間」だけではなくなっているからです。ソフトウェアのライセンスやクラウド環境を管理するシステム担当者、アジャイル組織における専門職のリーダー、あるいは外部の協力会社との窓口担当者など、「プロジェクトに必要なあらゆる資源の蛇口を握っている人たち」の総称として、この言葉が再定義されたのです。
現代のPMが直面する2つの「資源確保の壁」

なぜ今、資源マネジャーという存在がこれほどまでにクローズアップされるのでしょうか。そこには、私たちを取り巻く2つの大きな環境の変化があります。
外部リソース活用の増加とシビアな契約
何か新しい製品やサービスを開発する際、自社の正社員だけで完結するケースは劇的に少なくなりました。外部のフリーランスの力を借りたり、資本関係のない工場やパートナー企業から資材を供給してもらったりする機会が増えています。
当然ながら、こうした外部との間を取り持つ資源マネジャー(自社の調達部門や、外部ベンダーの窓口担当者)は、予算や支払い、契約条件に対して非常にシビアです。彼らから協力を得るためには、「なぜこの外部リソースが必要なのか」「プロジェクトのビジネス価値は何か」といった企画意図を、根気よく丁寧に説明して納得させる必要があります。
働き方改革で変わった「社内メンバーの借り方」
外部だけでなく、組織内部の資源(社内のメンバー)を使うことも、以前ほど簡単ではなくなっています。
その最大の要因が「働き方改革」です。
昔のように「残業をして当たり前」「少し無理をしてでも他のプロジェクトを手伝って当然」という風潮は、今の時代には通用しません。限られた労働時間内でパフォーマンスを上げることが絶対条件となっているため、人員を管理している上長(資源マネジャー)も、部下の時間を貸し出すことに対して非常に敏感でシビアになっています。
「こんな面白いプロジェクトをやるから、ちょっとAさんを貸してよ」といった軽いお願いが通る時代は終わりました。プロジェクトに引き込みたいスタッフがいるなら、彼らを管理している上長を「重要な資源マネジャー」と捉え、正式に了承を取り付けるための交渉プロセスが不可欠なのです。
実践ステップ:資源マネジャーを味方につける交渉術

PMBOKでも、「交渉が失敗すればプロジェクトは立ち行かなくなるため、資源マネジャーに対して協力し、効果的に交渉し、影響力を与えることが極めて重要である」と記されています。
実務において、彼らを味方につけるためには以下のステップを意識してみてください。
- 早期に巻き込む: プロジェクトが動き出してから「人をください」と言うのではなく、企画の段階から資源マネジャーに相談し、見通しを共有しておく。
- Win-Winの提案をする: 「このプロジェクトに参加することで、Aさんの〇〇というスキルが伸び、そちらの部門の将来の利益にも貢献します」といった、資源を貸し出す側のメリット(大義名分)を提示する。
- リスクと制約に配慮する: 「月に〇時間以上の残業はさせない」「繁忙期には本務を優先させる」など、彼らが抱えている労働管理の不安を払拭する条件を提示する。
まとめ:資源確保はプロジェクトの「生命線」
「プロジェクト・マネジャーは資源を直接支配していない」
この現実を受け入れることが、現代のプロジェクトマネジメントの第一歩です。
完璧なスケジュールや魅力的な企画書があっても、それらを実行する「人」や「環境」がなければプロジェクトは一歩も前に進みません。資源マネジャーは、プロジェクトを阻む敵ではなく、プロジェクトに血を通わせてくれる最大のスポンサーです。
タスクの管理と同じくらい、社内外のキーマンとの丁寧なコミュニケーションとネゴシエーション(交渉)に力を注いでみてください。その泥臭い調整力こそが、今の時代のPMに最も求められるスキルなのです。
注
| ↑1 | Project Management Institute, Inc., A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition(日本語版), 第1部 2.4.7(204頁)および 第2部 2.6.1(250頁)より要約。 |
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