「マーケティングでおすすめの本はありますか?」
そう聞かれると、私はいつも答えに窮してしまいます。
私自身、自社のサービスをもっと世に広めたいと思い、これまで何冊ものマーケティング本を読んできましたが、「これだ!」という決定版にはなかなか出会えずにいます。
「え?でも、コトラーの本とか有名だよね?」
「ベストセラーになっているあの本は?」
確かに名著と呼ばれる本はたくさんあります。しかし、現場の実務者としてそれを読むと、「言っていることは正しいが、今の自分たちには使えない」という違和感を抱くことが多いのです。
今回は、なぜマーケティング本を読むと「モヤモヤ」してしまうのか。その構造的な3つの理由をお話しします。
理由1:規模の問題(巨象の理論はアリには使えない)

マーケティング本を選ぶ際、最大のフィルターとなるのが「企業の規模」です。
- 大企業(予算:数億~数十億円)
- 中堅・中小企業(予算:数百万~数千万円)
- フリーランス・小規模事業者(予算:数万~数十万円)
フィリップ・コトラーに代表されるアカデミックなマーケティング理論の多くは、基本的に「大企業」を想定して書かれています。
豊富な資金を投下して市場シェアを奪い、マス広告で認知を獲得する――。これは「巨象」だからこそできる戦法です。
一方、明日のキャッシュフローを気にしているフリーランスや、限られたリソースで戦う中小企業がこの本を読んでも、実行できる施策はほとんどありません。
「STP分析」や「4P分析」の概念は知っておくべきですが、それをそのまま実務に落とし込もうとすると、「予算の桁が2つ違う」という壁にぶち当たり、「やっぱり偉い学者の話は役に立たない」という結論になってしまいます。
理由2:個別事象すぎる(生存者バイアスの罠)

「じゃあ、学者の本ではなく、成功した経営者の実体験本ならいいのでは?」
そう思うかもしれません。
確かに、『社員3人の町工場が世界を驚かせたマーケティング』といったタイトルの本は魅力的です。
しかし、ここにも落とし穴があります。それは「再現性」の問題です。
例えば、ある成功企業の自伝にこのような一節がありました。
「うちはホームページも手作りだ。デザインは洗練されていないが、その方が『温かみ』があって、お客さんが安心して買ってくれるんだ」
実際にそのサイトを見ると、90年代のホームページビルダーで作ったようなレトロな作りです。
これを見て、「そうか!金がないからWebデザインなんて適当でいいんだ!」と飛びつくのは危険です。
- 実はWebサイト以外の営業力が凄まじかっただけかもしれない。
- 商品そのものが唯一無二で、サイトがどんなにひどくても売れたのかもしれない。
- たまたま競合がいないニッチな市場だっただけかもしれない。
これは心理学でいう「生存者バイアス(Survivorship Bias)」や「ハロー効果」の一種です。
成功した結果(売上)に引きずられて、その過程(ダサいHP)まで肯定的に見えているだけで、実際には因果関係がないケースが多々あります。
個別の成功事例はエキサイティングですが、それを自社にそのまま適用して成功する保証はどこにもありません。
理由3:時代の問題(ドッグイヤーの加速)

3つ目の理由は、情報の「鮮度」です。
最近読んだあるマーケティング本に、「日本はまだまだインターネットが普及していない」という記述があり、驚愕しました。
奥付を見ると2018年の発行。執筆期間を考えれば2017年頃の感覚でしょうが、それにしても現代の感覚とはズレがあります。
ITやWebマーケティングの世界は、1年で常識が覆ります。
SEOのアルゴリズムは変わり、SNSのトレンドは移ろい、生成AIの登場でコンテンツ作成の前提すら崩れました。
数年前に書かれた「最新手法」の本は、出版された時点で既に陳腐化している可能性が高いのです。
まとめ:それでも「使える知見」を探して
このように、「規模」「再現性」「時代」という3つの壁があるため、誰にとっても役立つ「マーケティングの聖書」のような本は存在しません。
しかし、だからといって学ぶことを放棄するわけにはいきません。
重要なのは、本に書かれていることを鵜呑みにせず、「自分のビジネスの規模・フェーズ・時代背景に合わせて、翻訳(カスタマイズ)して取り入れる」という姿勢です。
Promapediaでは、数多あるマーケティング本の中から、これらのフィルターを通してもなお「今の私たちに役立つ」と思える本や知見を、厳選して紹介していきたいと思います。


