「ゴルディロックスの仕事」とは?モチベーションを高める「ちょうどいい難易度」の力
「仕事が簡単すぎてつまらない……」
「逆に、難しすぎてプレッシャーに押しつぶされそう……」
もしあなたが今、仕事に対してやる気が出ないと感じているなら、それはあなたの性格や能力のせいではなく、仕事の「難易度」が合っていないだけかもしれません。
今回は、モチベーション3.0の提唱者であるダニエル・ピンクが説く「ゴルディロックスの仕事」について解説します。
やる気を引き出し、成長を加速させるための「ちょうどいい難易度」の正体とは何でしょうか?
ゴルディロックスの仕事の概要
ゴルディロックスの仕事の意味
ゴルディロックスの仕事というのは『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』の著者として知られるダニエル・ピンクがつくった言葉で、易しすぎず、難しすぎず、ちょうどいい難易度の仕事を意味しています。
ゴルディロックスの由来

ゴルディロックスの由来は『3びきのくま』に登場する少女・ゴルディロックスに由来しています。
『3びきのくま』のあらすじは以下の通りです。
女の子が森でクマの家を見つける。誰もいないので入ってみると、テーブルの上にお粥が置いてあった。1つ目のお粥は「熱すぎる」。2つ目のは「冷たすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので、全部飲んでしまう。
女の子は疲れていたので椅子に座ろうとした。1つ目の椅子は「大きすぎる」。2つ目のは「もっと大きすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので座ったが、椅子は壊れてしまった。
眠たくなったので寝室に行ってみると3つのベッドがあった。1つ目のベッドは「固すぎる」。2つ目のは「柔らかすぎる」。3つ目のは「ちょうどいい」ので、そこで寝てしまう。
クマが戻って来て、お粥は食べられ、椅子には座った痕があり、1つは壊されていて、ベッドには寝た痕があり、子グマのベッドには女の子が寝ているのを発見する。目を覚ました女の子はクマに驚き、慌てて家から逃げていった。
―3びきのくま – Wikipediaより引用
この物語の少女のように、極端なものを避けて「ちょうどいい」状態を選ぶことを、ビジネスや科学の世界では「ゴルディロックスの原理」と呼びます。
ゴルディロックスの原理
先ほど引用したあらすじに書かれているように、ゴルディロックスはくまが用意していた「ちょうどいい」ものをすべて選んでいます。
このゴルディロックスの行動から転じて、「ちょうどいい」状態のことを「ゴルディロックスの○○」ということがあります。
例えば、緩やかな経済成長と低インフレを維持し、市場に優しい金融政策を可能とする状態を「ゴルディロックスの経済」といい、商品の価格が弱気相場と強気相場の間にあるときの状態を「ゴルディロックスの市場」と呼びます。
そして、こうした「ゴルディロックスの○○」をまとめて「ゴルディロックスの原理」と呼びます。
ダニエル・ピンクもこのゴルディロックスの原理にちなんで、「ゴルディロックスの仕事」という名前を付けたのでしょう。
- ゴルディロックス経済: 景気が過熱しすぎず、冷え込みすぎてもいない、適度な成長状態。
- ゴルディロックス相場: 楽観と悲観の中間で、株価が安定して上昇する相場。
- ゴルディロックス・ゾーン(宇宙): 惑星が恒星から「近すぎず遠すぎない」距離にあり、生命が存在できる領域(ハビタブルゾーン)。
なぜ「ちょうどいい難易度」が重要なのか?
ダニエル・ピンクは、この「ゴルディロックスの仕事」こそが、働く人の内発的動機づけ(自ら湧き上がるやる気)を高める鍵だと述べています。
「フロー状態」への入り口
難易度が適切であることは、心理学でいう「フロー(Flow)」に入るための必須条件です。
フローとは、時間を忘れて活動にのめり込み、最高のパフォーマンスを発揮している精神状態(いわゆる「ゾーン」に入った状態)のことです。
- 簡単すぎる仕事: 退屈を感じ、注意散漫になる。
- 難しすぎる仕事: 不安やストレスを感じ、委縮してしまう。
- ちょうどいい仕事: 没頭し、フロー状態に入る。
不満の解消と成長の実感
人間は「自分の能力を発揮したい」という欲求を持っています。
ゴルディロックスの仕事に取り組むことで、「退屈」という不満も、「不安」というストレスも解消されます。さらに、少し難しい課題をクリアすることで「できた!」という達成感と成長の実感を得ることができ、これが次の仕事への強力なモチベーションになります。
実践:ゴルディロックスの仕事を作る方法(レベルデザイン)
しかし、最初から自分にピッタリの「ちょうどいい仕事」が与えられるとは限りません。
そこで重要になるのが、仕事をゲームのように調整する「レベルデザイン」の考え方です。
マネージャーの視点:部下の「少し上」を見極める
もしあなたが部下を持つ立場なら、彼らの現在のスキルレベルを正確に把握し、「今の能力でギリギリ達成できるかどうかの課題」を与えることが重要です。
これを教育心理学では「足場かけ(Scaffolding)」とも呼びます。簡単すぎれば飽きられ、難しすぎれば潰れてしまいます。ゲームマスターのように絶妙な難易度設定が求められます。
個人の視点:仕事を自分で「調整」する
もしあなたが仕事を任される側なら、与えられた仕事を自分で「ゴルディロックス化」してみましょう。
- 仕事が簡単すぎて退屈な時:
- 制限時間を設ける: 「いつもは1時間かかるけど、今日は45分で終わらせる」と自分ルールを作ってゲーム化する。
- 品質目標を上げる: 「ただ終わらせるだけでなく、誰が見ても美しい資料にする」とハードルを上げる。
- 仕事が難しすぎて不安な時:
- 細分化する: いきなり全体をやろうとせず、「まずは目次だけ作る」「最初の1ページだけ書く」と、自分ができるレベルまでタスクを小さく分解する。
まとめ
やる気が出ないのは、あなたの意志が弱いからではありません。目の前の仕事の「難易度」が、今のあなたに合っていないだけかもしれません。
- ゴルディロックスの仕事とは、「易しすぎず、難しすぎない、ちょうどいい難易度」の仕事。
- それはフロー状態を生み出し、最高のパフォーマンスを引き出す。
- 仕事が「退屈」なら難易度を上げ、「不安」なら難易度を下げる工夫(レベルデザイン)をしよう。
童話の少女のように、自分にとっての「ちょうどいい」を見つけること。それが、長く楽しく働き続けるための秘訣です。


