専攻を決めるのは2年生の10月──ハーバードの一般教養に学ぶ、AI時代の「編集」する学び方

AIの進化がとまらない昨今、「これから自分は何を勉強していけばいいのだろう?」と立ち止まってしまうことはありませんか?私も日々の業務のなかで、同じように感じることが増えました。

いま、佐々木紀彦さんの著書『編集思考』(NewsPicksパブリッシング)を読み進めています。この本のなかで、日本の教育のあり方とアメリカの大学教育を対比している箇所があり、特に「ハーバード大学の一般教養」の話がとても面白く、強く惹きつけられました。

気になったので、実際にハーバード大学のカリキュラムが現在どうなっているのかを公式情報から調べてみました。そこから見えてきた「AI時代を生き抜く学びのヒント」について、私の考察を交えてお話しします。

異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考
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『編集思考』が指摘する、日本の「縦割り病」

『編集思考』が指摘する、日本の「縦割り病」

『編集思考』で佐々木さんが提唱する「編集」とは、ゼロから何かを全く新しく生み出すのではなく、「すでにある素材の選び方・つなげ方・届け方を変えることで新しい価値を創り出す手法」のことです。

そのうえで、佐々木さんは日本社会に「縦割り病」が蔓延していると指摘します。
高校の段階で文系・理系に分けられ、大学では特定の学部・学科に所属し、就職後は特定の職種という枠に収まる。区切りが早く、一度そのレールに乗ると他の分野へ横移動しづらい感覚は、多くの方に心当たりがあるのではないでしょうか。

特に大学教育において、日本では「複数の専攻(ダブルメジャー)を選びにくい」「分野を横断するコースが少ない」ことが課題として挙げられており、その対比としてハーバード大学の柔軟なカリキュラムが紹介されていました。

実際に調べてわかった!ハーバードのカリキュラム

「実際のところ、ハーバードのカリキュラムはどうなっているのだろう?」と気になり、大学の公式サイトを直接あたってみました(2026年8月時点の情報です)。

ハーバード大学の学部課程(Harvard College)は、卒業までに128単位(4単位の科目を32コース)が必要です。この32コースのうち、専攻とは全く無関係に「全学生が共通で満たさなければならない要件」が大きく5種類あります。

一般教育(General Education)── 4コース

現在の制度(2019年秋〜)では、次の4つのカテゴリーから各1コースずつを履修します。

  • 美学と文化
  • 倫理と市民性
  • 歴史・社会・個人
  • 社会における科学と技術

これらは単なる「教養の詰め合わせ」ではありません。ハーバードは、このプログラムの狙いを「緊急性の高い問題に向き合い、教室と外の世界に橋を架けること」だと説明しています。

【面白い発見】制度自体が「編集」されていた!
実は『編集思考』(2019年刊行)の図表で紹介されているのは、2007年に始まった「8分野構成」の旧制度でした。2019年秋から、現在の「4カテゴリー」へと形が改められています。
10年ほどのスパンで、分野をまんべんなく学ばせる形から「大きな問いに絞る形」へと、一般教養の枠組み(カリキュラム)そのものを時代に合わせて定期的に編集し直している点に、ハーバードの凄みを感じます。

分野別分布要件(Divisional Distribution)── 3コース

「芸術・人文科学」「社会科学」「科学・工学・応用科学」の3分野から、それぞれ1コースずつ履修します。文系の学生も理系の授業を、理系の学生も人文系の授業を必ず取ることになります。日本の「文理選択」のような壁は存在しません。

その他(データ推論・作文・言語)

  • データを用いた定量的推論(1コース): 専攻を問わず、全員がデータの扱い方や批判的思考を学びます。
  • 説明文の作文(1学期必修): 分析的な文章を書き、推敲する基礎技能を徹底的に鍛えます。
  • 言語要件: 単一の言語について1年分(8単位)の履修が求められます。

これらの要件をすべて足すと9コース前後。つまり、卒業に必要な単位の約3割が「専攻(専門)の外側にある学び」で埋まる計算になります。

専攻を決めるのは「2年生の10月末」

そして、私がいちばん興味を引かれたのがここです。

ハーバードの学生が専攻(Concentration)を正式に宣言する期限は、なんと2年生の10月下旬です。入学してから1年半もの間、専攻を決めないまま過ごすことになります。

もちろん、ただ放置されているわけではありません。1年生の後半には分野ごとの説明会やアドバイザーとの面談が用意されており、「迷い、広く触れる期間」そのものがカリキュラムとして意図的に設計されているのです。決めた後も、ダブルメジャーや副専攻(Secondary Field)といった「横断的な学び」の選択肢が制度としてしっかりと用意されています。

17歳や18歳の時点での判断でその後の専門がカッチリ決まってしまう日本の大学と比べ、「まず広く触れてから、専門を選ぶ」というこの順序には、非常に合理性があると感じます。

【SSAITSの視点】AI時代とプロマネに通じる「編集力」

【SSAITSの視点】AI時代とプロマネに通じる「編集力」

ここからは私の考えです。

これからの時代、AIを凌駕するような深い専門性を持つ人材の価値が下がることはないでしょう。しかし、多くのビジネスパーソンにとってより現実的で強力な武器になるのは、専門知識そのものではなく、それをどう「編集」するかという力です。

専門的な知識のかなりの部分は、すでにAIがフォローしてくれます。「分からないことを調べる」「定石を教わる」「体系立てて整理する」といった領域は、人間が時間をかけて暗記するものではなくなりました。

だからこそ、佐々木さんの言う「セレクト(選ぶ)」「コネクト(つなげる)」という工程が人間の領分になります。
どの素材を選ぶか、何と何をつなげるかは、その人が「どれだけ幅広い分野に触れたことがあるか」に依存します。触れたことのない分野は、そもそも選択肢にすら上がりません。

AIが専門知識を埋めてくれる時代だからこそ、横に広く触れておいた人が有利になる。
ハーバードが1年半かけて学生に横断的な科目を課しているのは、専門家を作らないためではなく、専門を選ぶ前に「つなげられる範囲(引き出し)」を徹底的に広げておくためなのだと思います。

プロジェクトマネジメントは、究極の「編集」である

そしてこれは、私たちプロジェクトマネージャー(PM)の仕事と完全にリンクします。

PMは、自分でコードを書くわけでも、デザインを描くわけでもありません。それぞれの専門家が持っている力(素材)を選び、つなぎ合わせ、ひとつの成果物として成立させるのが役割です。まさに「編集」そのものです。

だからこそ、PMには「浅くてもいいから広い理解」が求められます。理解していない工程については、進捗が遅れているかどうかの判断すらできません。
AIに聞けば専門用語も教えてくれますが、「そもそも何を聞けばいいか」を思いつくには、その分野の存在を広く知っておく必要があるのです。

明日からできる3つのアクション

明日からできる3つのアクション

とはいえ、今から私たちが大学に入り直すのは現実的ではありません。そこで、明日からすぐに実践できる「編集思考」を鍛えるためのアクションを3つ紹介します。

① 自分の「分野別分布要件」を作る

ハーバードの真似をして、自分に「人文・社会科学・理工」などのノルマを課してみましょう。「自分に一番縁遠い分野の本を、年に3冊は読む」と決めるだけでも視界が変わります。

② 仕事と関係ない分野を1つ持つ

つなげる先(コネクトの材料)がなければ編集は始まりません。仕事に直結しない趣味や学びの分野をひとつ持っておきましょう。すぐに役立たなくていい、むしろ役立てようとしないほうが長続きします。

③ AIには「教えてもらう」だけで「つなげさせない」

AIに要約や整理を任せるのは効率的ですが、そこで出てきた要素を「どう組み合わせるか」まで丸投げしないようにしましょう。「選ぶ」ことと「つなげる」こと。この編集のコア部分を手放してしまうと、自分自身の判断力(編集力)が育ちません。

まとめ

ハーバードのカリキュラムを調べてみて、彼らが「専門を選ぶ前に、つなげられる範囲を広げさせている」という明確な設計思想を持っていることが分かりました。

日本の「縦割り病」は制度に根ざしたものであり、個人の努力ですぐに変わるものではありません。しかし、自分の学びのなかに「横断的な要素」を意図的に混ぜることは、今日からでもできます。

AIが専門知識を埋めてくれるようになった今、価値が残るのはそれをどう選び、どうつなげるかという「編集」の部分です。何を勉強すればいいか迷ったときは、あえて「いちばん自分から遠い分野」に手を伸ばしてみるのも、案外よい選択なのかもしれませんね!


参考文献・参照先

※カリキュラムの内容はいずれも2026年8月時点の情報です。

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