「私の教訓登録簿」では、Promapediaを運営しているSSAITSの山脇が、過去に担当したプロジェクトでの失敗談を赤裸々に振り返っていきます。
「そのとき何が起きていたか」「私がどう判断したか」「結果どうなったか」、そして「そこから何を学んだか」に焦点を当ててお話しします。
記念すべき第1回目は、私が人生で初めて担当した「Webサイト制作の案件」での苦い経験を振り返ります。
十数万円、5ページの小さなサイトだった
2012年ごろ、私は大学院で研究をしながら、就職や別の道を模索していました。そんな中、アルバイトとして入った制作会社で、初めてWebサイト制作の案件にアシスタントとして携わることになりました。
私の役割は、ワイヤーフレーム(画面の設計図)の作成と、進行管理の補助です。
クライアントはハウスクリーニングの会社で、窓口になってくださったのは、普段は掃除の現場に自ら出ている担当者の方でした。
案件の規模は、金額にして十数万円、ページ数はわずか5ページ。今の私から見れば、最小規模の案件です。
しかし、それまで研究の道しか知らなかった自分にとって、この仕事は何もかもが目新しく、非常に刺激的でした。他社のサイトを片っ端から見て構成を調べ、当時のデザインの流行を追う。知らないことを覚えていくのが純粋に面白く、「この道に進もう」と思い始めたのも、たぶんこの時でした。
私は「作ること」しか見ていなかった
当時の私の頭にあったのは、ただ「期日までに5ページを形にすること」だけでした。
ワイヤーフレームを引き、デザイナーからの上がりを待ち、原稿をいただき、確認をお願いする。工程そのものは、止まることなく順調に進んでいました。
しかし一方で、私が「していなかったこと」があります。
- いま何がどこまで進んでいるかを、聞かれる前に伝えること
- 次に相手に何をお願いすることになるかを、前もって知らせること
- この進み方で相手が納得しているかを、確かめること
進捗は、私の頭の中と、制作会社内のやり取りの中には確かにありました。
ただ、クライアントの手元には、何もなかったのです。
びっしりと文字が埋まった「一通のFAX」

ある日、クライアントから会社に一通のFAXが届きました。
出力された用紙には手書きの文字がびっしりと並んでいて、スケジュールと品質についての強いクレームが長く綴られていました。
何が直接の引き金だったのか、正確なところはもう思い出せません。ただ、「あの分量の文章を顧客に書かせてしまった」という重い事実だけは、今でもはっきりと残っています。
Webサイト制作というのは、こんなに大変な仕事なのかと思い知らされました。
その後、なんとか問題なく納品までたどり着くことはできました。しかし、進行中にクライアントの中で少しずつ溜まっていった「見えないことへの不安」が、何かの拍子に爆発してしまったのだと今ならわかります。
不安は、成果物では消えない
その後、保守や運用の仕事を長く担当するようになって、はっきりと分かったことがあります。
ITや制作の事情を知らない担当者にとって、「進んでいるかどうかが見えない期間」は、それだけで猛烈な不安を引き起こすということです。
「できあがれば分かってもらえる」というのは、完全に作る側の理屈です。
相手からすれば、できあがるまでの数週間、自社のお金が動いているのに、手元には何も見えていません。しかも、社内では上司から「あのサイト、今どうなってる?」と聞かれる立場に立たされていたりします。そこで何も答えられない状態が続けば、不安や不信感が募るのは当然です。
あの時のクライアントほど強い反応をされた経験は、その後ありません。ただ、同じ種類の不安は、程度の差こそあれ「ほとんどの担当者が抱えている」のが普通です。その不安を持たずにいられるのは、Web制作を何度も経験してきたベテランの担当者だけでしょう。
私はいま、進捗が大きく動いていない週であっても、
「今週は◯◯の作業中です。来週◯日に△△をお送りします」
という、数行の連絡を必ず入れるようにしています。作業として増える手間はほんの5分ほどですが、この5分を惜しんだ結果があのFAXだったと肝に銘じているからです。
- 詳しくない相手には、聞かれる前に進捗を出す。
- 動きのない週でも、「動きがない(順調に作業中である)こと」を伝える。
屋号「SSAITS」に、この話が入っている
私が現在屋号にしている「SSAITS」は、Social Science and Information Technology Service の頭文字をとったものです。
社会科学(Social Science)と情報技術(Information Technology)というのは私のこれまでの経歴そのものですが、最後を「Service(サービス)」にしたのには明確な理由があります。
「作って渡して終わりではなく、相手に安心してもらい、気持ちよく受け取っていただくところまでが私たちの仕事である」と考えているからです。
その考えの出発点は、十数万円の5ページのサイトと、あの一通のFAXでした。
失敗から得たこの教訓を胸に、これからも「Service」を提供し続けていきたいと思います。

