外注単価は、どう決まっているのか ―技術と地域、2つの格差から考える

複数の会社から見積りを取ったら、同じ内容の作業なのに単価が倍近く違った。プロジェクトの立ち上げ期に、こうした場面に出くわすことがあります。

高いほうが技術力に見合っているのか。それとも安いほうが企業努力なのか。判断がつかないまま、なんとなく中間の金額で発注してしまう。心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

外注単価には、価格の差を生む構造があります。ここでは技術力による格差地域による格差という2つの軸から、その構造を見ていきます。発注する側がここを理解しておくと、単に安い相手を選ぶのとは違う判断ができるようになります。

目次
このサイトの運営者

山脇 弘成(SSAITS(サイツ)代表)

PMP®有資格者・Webプロジェクトマネージャー
大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
「技術」だけでなく「対話」を重視し、御社の「ほんとは、こうしたかった」を形にします。

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プロジェクトマネジメント情報サイトです。

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前提:フリーランスは増え続けている

まず、市場の状況を確認しておきます。

ランサーズの「フリーランス実態調査 2024年」によると、2024年のフリーランス人口は1,303万人、経済規模は20兆3,200億円。労働力人口に占める割合は18.8%にのぼります。副業や一人法人を含む広めの定義ではありますが、10年前と比べて大きく伸びていることは確かです。

IT・Web案件の現場感覚とも一致します。外部リソースを一切使わずに完結するプロジェクトのほうが、いまや少数派でしょう。

だからこそ、単価がどう決まっているかを発注側が理解しておく必要があります。

格差その1:技術力による差

「別次元の人」は確かに存在する

Webサイト制作であれば、HTMLやCSSはある程度覚えていてほしいところです。しかし、どれだけ知っていればよいのか、どれだけ経験を積めばよいのか、明確な指標があるわけではありません。

一方で、「この人は他の方とまったく別次元だ」と感じる方がいらっしゃるのも事実です。同じ仕様を渡しても、確認の質が違い、こちらが気づいていなかった問題を先に指摘してくれる。こうした方の単価が高いのは、当然のことだといえます。

問題は、その中間にいる大多数の方々の評価が難しいことです。

中間層が薄くなるという指摘

中間層が薄くなるという指摘

この難しさは、発注側の目利き不足だけの問題ではないようです。

IT技術の進歩による「テクノロジー失業」を扱った『機械との競争』では、高度にスキルを持った人(スーパースター)とスキルの低い人への需要が横ばいで推移するなかで、中間層の需要が減退していることに言及しています(同書99頁)。

そして中間層の報酬は、スキルの低い層の水準へと近づいていきます。よほど際立ったスキルを持っていない限り、中級レベルの技術者も、そうでない技術者と同じ扱いを受けてしまう。

刊行から10年以上が経ちましたが、生成AIの普及によって、この傾向はむしろ強まっているように見えます。

なぜ中間層が買い叩かれるのか ―発注側の事情

ここは、発注する立場から正直に書いておきたいところです。

中間層のニーズが減っている理由のひとつは、発注側がガイドラインやマニュアルを整備してきたからです。

外部の方にWebページ制作をお願いする場合、私はできるだけコーディングしやすいようガイドラインを用意します。このガイドラインに沿って作業していけば、そこまで高いスキルがなくてもページを作れるようにしておくためです。

ここに、避けられない結果がついてきます。作業をガイドラインやマニュアルに落とし込めるのであれば、求められるのはスキルではなく作業時間になります。そして報酬も、時間に対する対価として設定されることになります。

フリーランスとして独立した方は「自分はスキルを販売している」という感覚を持ちます。しかし取引の実態としては、作業時間を提供している状態になっていることが少なくありません。

発注する側が自覚しておくべきなのは、この一点です。いま自分は、スキルを買っているのか、時間を買っているのか。この区別がついていないと、単価の妥当性は判断できません。

格差その2:地域による差

最低賃金の差が、そのまま単価の差になる

東京では1ページ10,000円かかるWebページの制作を、地方では5,000円で受けてもらえることがあります。

この差も、報酬が時間給として考えられていることと関係します。「この作業は5時間程度だから、報酬はいくらにしよう」と考えるとき、参照されるのはその地域の物価や賃金水準です。

実際に最低賃金を見てみます。2025年度(令和7年度)の地域別最低賃金は、東京都が1,226円、最も低い高知・宮崎・沖縄の3県が1,023円でした。全国加重平均は1,121円で、この年、初めて全都道府県が1,000円を超えています。

地域間格差は、少しずつ縮まっている

ここは、この記事を最初に書いた2018年から明確に状況が変わった部分です。

当時の最低賃金は、東京が958円、最も低い県が737円で、その差は221円ありました。現在の差は203円です。金額の開きが縮んだだけでなく、東京に対する比率で見ると約77%から約83%へ改善しています。

さらに2026年度の改定に向けた中央最低賃金審議会の目安では、Aランク(都市部)よりもB・Cランクの引き上げ幅を大きく取る配分が示されており、地域間格差の是正が意識されています。

リモート前提の時代に、地域差は残るのか

もっとも、実務ではもうひとつ大きな変化が起きています。リモートワークの定着です。

作業場所を問わない仕事であれば、発注側が地方の単価水準で発注する理由も、受注側が地方の水準で受ける理由も、以前より弱くなっています。実際、地域を問わず全国から受注する方は増えました。

とはいえ、地域の相場観が完全になくなったわけではありません。発注側として気をつけたいのは、「地方だから安いはず」という前提で交渉を始めないことです。かつては成立していたその前提は、いま急速に古くなりつつあります。

発注する側が押さえておきたいこと

ここまでを踏まえ、PMとして意識しておきたい点を整理します。

単価の安さは、どこかの持ち出しになっている

単価の安いパートナーに依頼したものの、修正が多く、確認工数が膨らんで、結局は高くついた。よくある話です。

このとき増えているのは、外注費という目に見えるコストではなく、自社側のレビュー時間という見えにくいコストです。見積書の金額だけを比べていると、この振り替えが見えません。

単価を決める前に、「何を買うか」を決める

単価を決める前に、「何を買うか」を決める

ガイドラインを整備し、作業を定型化したうえで時間を買うのか。それとも設計判断まで含めて任せ、スキルを買うのか。

先に決めるべきはこちらであって、単価はその結果として決まります。順序が逆になると、「安く受けてくれる人に、判断を要する仕事を任せてしまう」という最も事故が起きやすい形になります。

フリーランス新法を前提に発注する

2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス新法が施行されました。

発注する事業者側には、たとえば次のような義務が課されています。

  • 業務委託の際に、給付の内容や報酬額などの取引条件を書面や電磁的方法で明示すること
  • 報酬の支払期日を、給付を受領した日から起算して60日以内に設定し、その期日までに支払うこと
  • 報酬の一方的な減額や、受領拒否といった行為を行わないこと

「口頭で頼んで、月末締めの翌々月払いで」という従来の慣行が、そのままでは通らなくなっています。

これは規制が増えたという話ではなく、発注条件を曖昧にしたまま進めるやり方が通用しなくなったということです。むしろ、条件を明示する習慣はプロジェクトの進行そのものを安定させます。

(義務の詳細や適用範囲には条件があります。実際の運用にあたっては、公正取引委員会などが公開している資料をご確認ください。)

受ける側は、どうすればよいのか

最後に、フリーランスとして働く方に向けても書いておきます。

短期的には、扱える業務の範囲を広げること。デザイナーであれば、デザインツールだけでなくHTML・CSSにも触れておく。仕事量を確保するには、この幅が効きます。

ただし、長期的にはこれだけでは頭打ちになります。幅を広げる努力は、時間給で報酬が決まる領域では有効ですが、その領域にとどまり続ける限り、単価は上がりません。

長期的な選択肢は、大きく2つです。他の人には代えがたい専門スキルを磨いて「スーパースター」の側に立つか、個人ではなく事務所や会社として組織で受ける形に移行するか。

どちらを選ぶにせよ、時間を売る形から抜け出す道筋を持っておくことが要になります。

単価の差には、理由がある

外注単価の差は、値切り方の上手下手で生まれているわけではありません。

技術力の差と、地域の賃金水準。そして何より、その仕事が「スキルを買う仕事」なのか「時間を買う仕事」なのかによって決まります。

見積りを比較して迷ったときは、金額を並べる前に、この問いに戻ってみてください。自分たちはこの人に、何を頼もうとしているのか。そこが定まれば、高いほうが妥当なのか、安いほうで十分なのかは、おのずと見えてきます。


参考

  • ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」
  • エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『機械との競争』(村井章子訳)日経BP社、2013年、99頁
  • 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)
  • 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法」
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