PMBOK第8版の「財務パフォーマンス領域」を読み解くシリーズ。今回は、プロジェクトのお金をどう扱うかのルールを決めるプロセス、「2.4.2.1 財務管理の計画(Plan Financial Management)」について解説します[1]出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 … Continue reading。
プロジェクトを安全に進めるためには、いきなりお金を使い始めるのではなく、「どう見積もり、どう調達し、どう管理するか」のロードマップを最初に策定する必要があります。
財務管理計画書(Financial management plan)の構成要素
このプロセスでの主要なアウトプット(成果物)が「財務管理計画書」です。
ここには、コストや収益をコントロールするための具体的なルールが記載されます。主に以下の項目をあらかじめチームで合意しておきます。
| 構成要素 | 概要・決めること |
|---|---|
| 測定単位と精度 | 人月、時間、通貨などの「単位」と、端数処理(切り上げ等)や見積りのブレ幅(±10%など)の「精度」を定義する。 |
| 組織手順とのリンク | WBSの管理単位(コントロールアカウント)と、社内の経理・会計システムを紐付けるコードを割り当てる。 |
| 管理しきい値 | 「予算から何%オーバーしたらアラートを出し、是正措置をとるか」という限界値(しきい値)を決める。 |
| パフォーマンス測定ルール | アーンド・バリュー・マネジメント(EVM)の計算式や、完了率をどう算出するかなどのルールを決定する。 |
| 報告様式 | 誰に、どれくらいの頻度で、どのようなフォーマットでコストレポートを提出するかを定義する。 |
これらの合意を財務管理計画書にまとめ、関係者の合意を取っておきましょう。
資金調達戦略(Funding strategy)
プロジェクトの資金を「どこから、どのように獲得するか」を定義することも、このプロセスの重要な役割です。PMBOKでは以下のような調達手法が提示されています。
- 内部予算の割り当て: 組織の部門予算から一括、あるいは段階的に資金をリリースする。
- 顧客契約: 顧客からベンダーとして請け負い、契約に基づいて支払いを受ける(日本では最も一般的)。
- 外部からの調達: 投資家からの資金調達、政府の補助金(グラント)、クラウドファンディングなどを活用する。
プロジェクトの性質に合わせて、これらを単一、あるいは組み合わせて戦略を練ります。
【SSAITSの視点】「営業からの引き継ぎ予算」に潜む罠
ここまでPMBOKの理論を解説してきましたが、実際の日本のビジネス環境(特に受託・請負業務)では、「プロジェクトマネージャー(PM)自身が最初から財務計画を作るわけではない」というケースが多々あります。
よくあるのが、営業部門が顧客と折衝して案件を受注し、費用の見積もりも終わった状態で、その予算の枠組みだけをPMが引き継ぐというパターンです。
自分が最初から関わっていない、他人が策定した財務計画を渡された時、PMはどうすべきでしょうか?
「自分は予算策定に関わっていないから、渡された数字でとにかく作るだけだ」と、このプロセスを軽視するのは非常に危険です。
営業と制作(開発)のコミュニケーション不足を疑え
営業部門と実際の制作(開発)部門のコミュニケーションが十分でない場合、WBS(作業内容の洗い出し)が極めて甘い状態で見積もりが通ってしまっていることがよくあります。
いざプロジェクトが始まってから「実はあの機能も必要だった」「この作業には想定の3倍のコストがかかる」と気づいても、すでに顧客と合意した予算(コスト・ベースライン)は増やせません。結果として、プロジェクトは開始直後から大赤字の道を歩むことになります。
引き継ぎ時こそ「財務計画の再レビュー」を
自分が策定した財務計画でなくても、案件を引き継いだ瞬間に、プロジェクトメンバーや主要なステークホルダーを集めて「この予算とWBSで本当に実現可能か?」を徹底的にレビュー(再確認)することがPMの重要な責務です。
もしWBSの甘さや見積もりの不備を発見したら、プロジェクトが本格稼働する前に、営業担当者やスポンサーにアラートを出し、スコープの調整やリスク予備費の確保に動かなければなりません。
「自分が作っていないから」という言い訳は、プロジェクトが炎上した時には通用しません。引き継いだ計画であっても、そこに責任を持ち、現実的な財務・コスト管理のロードマップを引き直すことこそが、プロマネに求められる真の姿なのです。
注
| ↑1 | 出典:Project Management Institute, Inc., The Standard for Project Management and A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK® Guide) – Eighth Edition, 第2部 セクション2.4.2.2(63-64頁)および 第5部「Tools and Techniques」該当ツール説明ページより要約・翻訳。以下、PMBOK第8版(英語版)と略記。 |
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