「理想の客」だけでは食っていけない。『ゲンロン戦記』に学ぶ、ターゲット設定の苦悩と現実

「理想の客」だけでは食っていけない。『ゲンロン戦記』に学ぶ、ターゲット設定の苦悩と現実

仕事をしていると、理想と現実の間でもがくことが多々あります。
個人事業主である私ですら悩むことばかりなのに、従業員を抱える会社の経営者となればなおのことでしょう。

批評家であり、株式会社ゲンロンを立ち上げた東浩紀(あずまひろき)さんも、そんな悩める経営者の一人です。

株式会社ゲンロンとは?

批評家の東浩紀氏が2010年に創業した企業。「観客」をつくることを理念に掲げ、トークイベントスペース「ゲンロンカフェ」の運営、出版事業、動画配信プラットフォームの運営などを行っています。
アカデミズム(大学)やジャーナリズム(マスコミ)とは異なる、知の交流拠点を民間企業として持続させるという、前例のない挑戦を続けています。

著書『ゲンロン戦記』には、このゲンロンを立ち上げ、軌道に乗せるまでの悪戦苦闘が赤裸々に語られています。
今回はこの本から、すべてのビジネスパーソンが直面する「ターゲット設定のジレンマ」について考えてみます。

目次
このサイトの運営者

山脇 弘成(SSAITS代表)

PMP®有資格者・Webプロジェクトマネージャー
大手メディアや官公庁のWebプロジェクト実績多数。
「技術」だけでなく「対話」を重視し、御社の「ほんとは、こうしたかった」を形にします。

「亜インテリ」というボリュームゾーン

理想と現実でなやむ図

この本の中で特に私の心に残ったのが、「亜(あ)インテリ」の扱いに関するくだりです。
ここに、ビジネスの難しさが凝縮されているように思えます。

「亜インテリ」というのは聞きなれない言葉ですが、本書によると、政治学者の丸山眞男先生が区分けしたもののようです。
大学教授やマスコミなどの「インテリ」に対して、学校教師や地方名望家のような、「知識欲はあるが、専門家ではない人たち」を「亜インテリ」と呼んだそうです。

(※ここで使う「亜」というのは、生物学の「亜種」や「亜流」といった言葉に使われるように、「それに次ぐもの」「まがいもの」といったニュアンスが含まれます。)

東さんは「問題含みの分類ですが」と断りを入れつつ、2016年当時のゲンロンが「インテリ」をターゲットとした高尚な企画ばかり打ってしまい、ボリュームゾーンである「亜インテリ」を取り込めていなかったことを反省し、軌道修正していると語っています。

しかし、この話を深読みすると、経営者の本音が聞こえてくるようです。

「俺たちは本当はインテリだけを相手にしたい」
「けれども、それだけでは商売にならないから、亜インテリもターゲットにする」

言葉を選ばずに言えば、このような葛藤があったのではないでしょうか。
そしてこれは、東さんに限らず、多くのビジネスパーソンが抱える悩みでもあります。

「美食倶楽部」になりたいけれど……

美食俱楽部のイメージ

多くの会社やお店は、こうした「来てほしい理想の顧客」「実際に収益を支えるボリュームゾーン」のギャップでもがいています。

わかりやすい例として、グルメ漫画『美味しんぼ』に出てくる「美食倶楽部」を考えてみましょう。
海原雄山が主宰するこの会員制料亭は、政財界を中心に各界の食通を集め、金に糸目を付けず、ひたすらに美食を極めています。
会員は厳しい審査をパスする必要があり、雄山の機嫌を損ねれば即退会。つまり、「自分の価値がわかる、気に入った相手だけに商売をする」という、究極に理想的なビジネス形態です。

しかし、現実の多くのお店はそうはいきません。

たとえば、「コーヒー通も唸る、最高の一杯を飲んでほしい」とこだわりの喫茶店を開いたとします。
しかし、世の中に「真のコーヒー通」はごくわずかです。大多数はそこまでのこだわりを持っていません。
ビジネスとして家賃を払い、利益を出すためには、ある程度「コーヒー通ではないライトなユーザー」も取り込まざるを得ないのです。

スタバのように割り切れるか?

しかし、当初ターゲットにしていた顧客像と、実際に来るお客さん(ボリュームゾーン)があまりにもかけ離れてしまうと、「いったい何のために開業したのか?」というアイデンティティ・クライシスに陥ってしまいます。

一方で、そのボリュームゾーンをターゲットに舵を切り、大成功した企業もあります。
それがかの有名なスターバックスです。

当初はシアトル系のスペシャルティコーヒーを売りにしたショップでしたが、現在では「貴重な豆の味を楽しみたい」という客層よりも、「スタバのおしゃれな雰囲気を楽しみたい」「甘いフラペチーノを飲みたい」という顧客層(ライト層)に目が向いています。
そして、それをビジネスとして成立させています。

スターバックスのように、ビジネスライクにターゲットを切り替えられたら、経営は楽になるでしょう。
しかし、創業者や職人の「こだわり」が強ければ強いほど、そううまく割り切ることはできません。

まとめ

『ゲンロン戦記』に出てくる「亜インテリ」という言葉。
そこには、「理想を追求したい」というクリエイターとしての矜持と、「会社を存続させなければならない」という経営者としての責任の間で揺れ動く、東さんの生々しい葛藤が見え隠れします。

あなたのビジネスにおける「インテリ(理想の客)」と「亜インテリ(現実の客)」は誰でしょうか?
理想と現実のバランスに疲れた時、この本は「悩んでいるのは君だけじゃない」と背中を押してくれる一冊になるはずです。

PR 開発・制作現場の導入実績No.1ツール

プロジェクトを成功させるには、適切なツール選びが重要です。タスク管理・Wiki・バージョン管理がこれ一つで完結する「Backlog」は、私が最も信頼しているプロジェクト管理ツールです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次