『影響力の武器』におけるコミットメントとは何か?影響を及ぼす条件と活用事例を解説
『影響力の武器』におけるコミットメントとは
コミットメントという言葉にはさまざまな意味がありますが、社会心理学の名著『影響力の武器』の中で使われるコミットメントは自分自身や他人に対して約束を守る意思や行動のことを指しています。
つまり、目標などを掲げて、それに対して責任を持って行動することを意味します。
『影響力の武器』には、コミットメントに似た効果として一貫性の原理が紹介されています。
一貫性の原理については、下記の記事もご参照ください。
コミットメントが影響を及ぼす4つの条件
コミットメントが影響力を発揮する条件は、下記の4つです。
- 行動を含むこと
- 公衆の目にさらすこと
- 努力を要すること
- 自分の意志で選ぶこと
それでは、1つずつ詳しく見ていきましょう。
行動を含むコミットメント
行動を含む表明をすることで、自己イメージに内側からも外側からも一貫性の圧力がかかります。
- 自己イメージに行動を合わせようとする(内側からの圧力)
- 他者から見た自分のイメージに合わせようとする(外側からの圧力)
この両面からの圧力によって、人は一貫性を保とうとします。
公衆の目にさらす「パブリック・コミットメント」
人は、一度決定したことを公表すれば、その考えに固執するようになります。この方法は、特にプライドの高い人に強く影響を与えます。
社会心理学者のモートン・ドイチとハロルド・ジェラードによる、パブリック・コミットメントの効果がよくわかる実験があります。
実験は、大学生に線分を見せて、その長さを心の中で思い定めてもらうというものです。
Aグループ:最初の判断を書き留め、署名したものを実験者に渡させる
Bグループ:最初に判断したものを書き留めさせるが、誰にも見られないようにする
Cグループ:最初の判断は心の中にしまっておかせる
その後、学生たちに最初の判断が間違っていると思わせるような新たな証拠を与えたところ、もっとも判断を変化させたのは、一切コミットメントしなかったCグループの学生でした。
プライベートな形でコミットメントしたBグループの学生は、自分の判断を誰にも公表しなかったにもかかわらず、Cグループの学生よりも一度した決定を変えようとする傾向は小さいという結果が出ました。
さらに、Aグループの学生はパブリック・コミットメントの効果により、もっとも最初の判断に固執し、一貫性を保とうとしました。
努力を要する
コミットメントにかかる労力があれば、その分だけ影響は強くなります。
たとえば、新聞に出ているコンサートや舞台の広告には料金が載っていないことがあります。公演に行く可能性がある人々は、インターネットで調べたり、電話をして聞いたりします。彼らはこの小さなコミットメントのおかげで、料金を調べる前よりもチケットを買おうとする気持ちが強くなることでしょう。
自分の意志で選ぶ
外からの圧力によらずに、自ら選択して行った行為には責任が生まれます。外部からの圧力には「脅し」などのマイナスなものだけではなく、価値がある報酬も含まれます。
報酬があることで、人に何かさせられるかもしれませんが、それはただ「やらされただけ」であり、その人が自分の行動に責任を感じることはありません。
報酬ありきの行為は、責任感の低下だけでなく、その報酬がなくなると、その行動へのやる気までもがなくなってしまうこともわかっています。
コミットメントの活用事例
連絡なしにキャンセルする予約客をなくす
「連絡なしのキャンセル」に困っている飲食店は、多いでしょう。しかし、これを電話予約時の一言で解決した経営者がいました。
いつもは「変更があれば連絡してください」と言っていたのを、「変更があれば連絡いただけますか?」と尋ね、返答を待つように変えました。
つまり、「変更があれば連絡いただけますか?」という質問をすることで、電話予約をしてきた人からの「わかりました」というコミットメントを獲得したということです。
効果は絶大で、「連絡なしにキャンセル」する予約客の割合が、30%から10%に減りました。
これは質問をして相手に返事をさせることで、パブリック・コミットメントが働いたと考えられます。
タバコをやめる
タバコが体に悪いとわかってはいても、習慣を変えるのは難しいことです。しかし、パブリック・コミットメントを使えば、うまくやめられるかもしれません。
「この人には軽蔑されたくない」という人のリストを作って、彼らに「二度とタバコを吸わない」と約束した人がいました。彼女は、多くの人に宣言することでタバコをやめることに成功しました。
これは、目標にも応用できるので、目標のある人は周囲の人に宣言してみるのも良いでしょう。
参考
- ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)『影響力の武器[第三版]―なぜ、人は動かされるのか』誠信書房、2014年