【マーケ初心者向け】N1分析とは?たった一人の顧客理解から大ヒットを生む方法

「たくさんの人にアンケートを取ったけど、当たり障りのない意見しか集まらなかった…」
「平均的なお客さんを狙ったら、誰にも刺さらない普通のサービスになってしまった…」
マーケティングを担当していると、こんな壁にぶつかることはありませんか?
みんなの意見を聞こうとすると、かえって「本当に響くアイデア」から遠ざかってしまう…。そんな悩みを解決する強力な武器として、今「N1分析」という考え方が注目されています。
この記事では、『ビジネスの結果が変わるN1分析』などの書籍でも話題のN1分析について、初心者の方にも分かりやすく、その基本から実践方法、成功の秘訣までを徹底解説します!
N1分析って何?~たった一人の「あなた」から始めるマーケティング~
![[画像:一人の顧客(N=1)の顔が大きく映し出され、その周りに「なるほど!」「そうだったのか!」というひらめきの電球が飛び交っているイメージ]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/06/N1analysis-3-1024x576.png)
まず、N1分析がどんなものなのか、基本から見ていきましょう。
N1分析のカンタンな説明
N1分析の提唱者の西口一希さんは、同手法を以下のように定義しています[1]西口一希『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』日本実業出版社、2024年、5頁。。
「N1分析」は、名前のある実在する1人の顧客を徹底的に理解し、その顧客が価値を見出す便益と独自性を見極め、具体的なプロダクトのアイデア、遡及するための伝達方法としてのコミュニケーションのアイデアを洞察する帰納的アプローチ。顧客自身も気づいていない、もしくは、言語化できない、潜在的なニーズ(インサイト)を洞察し、新しい価値を創造する分析です。
カンタンに言うと、N1分析は「名前も顔も分かる、実在するたった一人(N=1)のお客さん」を徹底的に深く理解することから始める分析アプローチです 。
架空の人物像(ペルソナ)ではなく、実際にあなたのサービスを愛用してくれている、あるいは使わなくなってしまった「特定のだれか」に注目します。
そして、その人の生活や価値観、どんな気持ちで商品を知り、買い、使い続けているのか(あるいはやめてしまったのか)を、まるで一本の映画を観るように深く掘り下げていきます。
「平均的なお客さん」を狙うマーケティングとの違い
![[画像:ぼんやりとした大勢の人のシルエット(平均像)に「×」がつき、その横に一人の人物の鮮明な写真(N=1)に「◎」がついている対比イメージ]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/06/N1analysis-1-1024x576.png)
これまで主流だったSTP分析や4P分析といった手法は、市場全体を俯瞰し、「20代女性」「30代男性」のようにグループ分けして、その「平均的な好み」を狙うことが多かったです 。
これは、広い市場を効率的に攻める上では有効な方法です。
しかし、この方法には「平均値の罠」があります。
「平均的な好み」に合わせた商品は、誰からも嫌われないかもしれませんが、誰からも「これがなきゃダメ!」と熱狂的に愛されることもない、没個性的なものになりがちです。
結果、一番競争の激しい市場で戦うことになってしまいます。
N1分析は、この逆の発想です。
まず、たった一人のお客さんを「絶対に満足させる」ものは何かを見つけ出す。そして、その深いインサイト(お客さん自身も気づいていない本音)をヒントに、他の多くのお客さんにも響くような新しい価値やアイデアを生み出していくのです。
なぜ今、N1分析が注目されるの?
では、なぜこのN1分析がこれほどまでに重要視されているのでしょうか?
お客さんの「なぜ?」が深く分かるから
アンケートやアクセス解析などの数字データでは、「何が売れたか(What)」は分かっても、「なぜ売れたのか(Why)」までは分かりません。
N1分析では、一人の顧客との対話を通じて、その行動の裏にある感情や動機、本人も意識していなかったような「ホンネ(インサイト)」に迫ることができます 。これが、本当に心に響く商品やサービスのアイデアの源泉になります。
他社が真似できない独自のアイデアが生まれるから
多くの企業が同じような市場データを見ていると、どうしても似たような戦略になりがちです。しかし、N1分析で発見した「たった一人のリアルな物語」から生まれたインサイトは、あなたの会社だけのオリジナルなものです。この独自のインサイトから生まれたアイデアは、競合他社には真似できない、強力な競争優位性につながります 。
N1分析、どうやってやるの?~インタビューの基本ステップ~
![[画像:インタビュアーが熱心にメモを取りながら、笑顔で話す顧客の話に耳を傾けているイメージ。]](https://ssaits.jp/promapedia/wp-content/uploads/2025/06/N1analysis-2-1024x576.png)
「たった一人を深く知るって、具体的にどうすればいいの?」
N1分析の核心は、顧客への深いインタビューにあります。ここでは、その基本的な進め方を見ていきましょう。
ステップ1:準備しよう!(目的と仮説を立てる)
いきなりインタビューを始めても、ただの雑談で終わってしまいます。大事なのは事前準備です。
- 目的をハッキリさせる: 「なぜこのお客さんは、高いのにA商品をリピートしてくれるんだろう?」「なぜあのお客さんは、一度使ってやめてしまったんだろう?」のように、「インタビューで何を明らかにしたいのか」という目的を具体的に設定します 。
- 仮説を立てる: 「きっと〇〇という理由で、この商品を選んでくれているに違いない」という仮説を、事前にチームで話し合って立てておきましょう 。インタビューは、この仮説を確かめ、深掘りするための場です。
ステップ2:誰に聞く?(まずはロイヤル顧客から)
N1分析を始めるなら、最初のインタビュー相手は「あなたのサービスを愛してくれているロイヤル顧客」から始めるのがおすすめです。なぜなら、彼らはあなたのサービスの価値を一番よく理解し、その魅力を言葉にできる人たちだからです。彼らの話を聞くことで、自社の「勝ちパターン」が見えてきます 。
インタビューの人数は、まずは5人~10人、理想的には20人程度から共通のパターンが見えてくると言われています 。もしロイヤル顧客がそんなに多くなくても、いるだけで構いません。まずは始めてみましょう!
ステップ3:どう聞く?(4W1Hで「心が動いた瞬間」を掘り下げる)
インタビューで一番大切なのは、お客さんの「心が動いた瞬間」を捉えることです。商品を知ったとき、初めて買ったとき、リピートを決めたとき…その瞬間に何があったのかを具体的に聞き出します 。
そのために役立つのが「4W1H」のフレームワークです 。
- When(いつ): 「初めてこの商品を知ったのは、いつ頃でしたか?」
- Where(どこで): 「その広告は、どこのウェブサイトで見ましたか?」
- What(何が): 「購入の決め手となった、その商品の何が気になりましたか?」
- How(どんなふうに): 「その時、どんなふうに思いましたか?」
- Who(誰から): 「その口コミは、どなたから聞きましたか?」
未来の仮定(「もし~だったらどうしますか?」)ではなく、過去の具体的な行動や感情に焦点を当てて質問することが、リアルな本音を引き出すコツです 。
インタビューの心構え:「弟子」になって聞こう!
インタビュアーは、専門家として質問攻めにするのではなく、相手に教えを乞う「弟子」のような姿勢で、真摯に耳を傾けることが大切です。
相手が安心して本音を話せる雰囲気を作り、相手が使った言葉をそのまま記録しましょう 。その「生の声」にこそ、お宝(インサイト)が眠っています。
N1分析の成功事例を見てみよう!
N1分析で事業が大きく成長した例として、遊び・レジャー予約プラットフォーム「アソビュー!」の事例があります。
- 当初の課題: 会員数が最も多い「20代の若者」をターゲットにしていたが、リピート率が低く悩んでいた 。
- N1分析で分かったこと: データ分析とインタビューを重ねた結果、本当に事業を支えているロイヤル顧客は、実は「小学生以下の子どもを持つファミリー層」だったことが判明!
- 発見されたインサイト: ファミリー層は、単なる「遊び」を求めていたのではありませんでした。「夏の暑い日でも、雨の日でも、子どもを安全に快適に楽しませたい」という切実な悩み(インサイト)があり、その解決策としてアソビュー!の屋内施設などを利用していたのです 。
- 戦略転換と成果: この発見に基づき、アソビュー!はターゲットをファミリー層に大きくシフト。サイトデザインやマーケティングを全てファミリー層向けに転換した結果、リピート率は大幅に改善し、事業は劇的なV字回復を遂げました 。
この事例は、N1分析がいかに強力なインサイトをもたらし、ビジネスを根幹から変える力を持っているかを示しています。
N1分析を使うときの注意点
N1分析は強力ですが、注意点もあります。一番のリスクは、「たった一人の意見を、市場全体の意見だと勘違いしてしまうこと」です 。
一人の声から得られたインサイトは、あくまで「仮説」です。その仮説が他の多くの人にも当てはまるかどうかを、アンケートやA/Bテストといった数字で検証するプロセスを組み合わせることが大切です 。
また、マーケティング部門だけでなく、製品開発や営業など、社内の色々な部署の人を巻き込んでインタビューに参加してもらうと、組織全体で顧客への理解が深まり、より効果的です 。
まとめ:N1分析で、顧客の本当の気持ちを見つけよう!
今回は、「N1分析」について解説しました。
- N1分析は、実在するたった一人のお客さんを深く知ることから始める 。
- 平均的な顧客像を追うのではなく、個人の「なぜ?」に迫り、本音(インサイト)を見つけ出す。
- インタビューでは「心が動いた瞬間」を「4W1H」で掘り下げる 。
- 見つけたインサイトは「仮説」として、他のデータとも組み合わせて検証する 。
N1分析は、単なる調査手法ではなく、「お客さんをビジネスのど真ん中に置く」という考え方そのものです。
データや数字だけでは見えてこない、一人の顧客の喜びや痛みに真摯に向き合うこと。そこから、他社には真似できない、本当に価値のあるアイデアが生まれてくるはずです。
ぜひ、あなたのビジネスでも「たった一人」のお客さんの物語に、じっくりと耳を傾けてみてください。
参考
- 西口一希『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』日本実業出版社、2024年
注
↑1 | 西口一希『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』日本実業出版社、2024年、5頁。 |
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