STEAM教育ってどんな学び?子供の未来を応援する親のための解説

AI技術の進歩により、現代社会はますます複雑になってきています。また、新しい技術を使って、イノベーションを起こすことも求められています。
例えば、自動運転車やスマートスピーカーなど、新しい技術が次々と登場しています。このような社会で生きる子どもたちには、どのようなスキルが必要なのでしょうか?

この疑問に答える鍵として、近年注目を集めている教育アプローチの1つがSTEAM教育です。
これは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)を統合した学際的なアプローチです。
もともとは、科学、技術、工学、数学の「STEM」から始まり、芸術が加わることで「STEAM」と呼ばれるようになります。

STEAM教育というと、「理系科目に重点を置いた教育」と勘違いされやすいですが、それだけではありません。
では、STEAM教育とはどのようなものなのでしょうか?

今回の記事では、STEAM教育の歴史、その世界的な広がり、そして日本における独自の発展について掘り下げ、保護者の皆様がその包括的な理解を深めることができるようにします。

SMETからSTEMへ

STEMの初期の萌芽(頭字語以前の時代)

「STEM」という用語が登場する以前から、科学、数学、技術教育の重要性は認識されていました。
これらの分野の価値は数世紀にわたって認識されており、社会のニーズに合わせて進化してきました。

第二次世界大戦後、世界の複雑化と技術の進歩に伴い、これらの分野の重要性は増大の一途を辿りました。
特に第二次世界大戦は、軍事、ビジネス、学術の連携により科学技術が大きく進歩した時代であり、原子兵器や合成ゴムなどの革新的な技術が生まれました。

STEMという頭字語の誕生

1990年代初頭、アメリカ国立科学財団(NSF)を中心に、「SMET(Science, Mathematics, Engineering, and Technology)」という頭字語が登場しました。
これは、純粋科学と応用科学を統合した教育アプローチを意図したものでした。頭字語が作られたことは、教育政策においてこれらの分野に対する意図的かつ統一的なアプローチが始まったことを示しています。

2001年頃、NSFのジュディス・ラマリーによってSMETはSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)へと再構成されました。
わずかな変更でしたが、より覚えやすく、親しみやすい用語として教育界に定着しました。

STEM教育の当初の目標は、国家競争力の向上、イノベーションによる社会問題の解決、科学技術分野における熟練した労働力の育成など、経済的および戦略的な利点と深く結びついていました。

2005年の報告書「Rising Above the Gathering Storm」では、繁栄、科学技術に依存する知識集約型雇用、社会問題解決のための継続的なイノベーションの間の関連性が強調され、STEM教育の重要性が改めて認識されました。

STEAMの台頭:創造性とイノベーションの重視

「A」の推進 – 芸術が重要な理由

STEMに「Art(芸術)」が加えられ、STEAMが誕生した背景には、創造性とイノベーションがSTEM分野やそれ以外の分野での成功に不可欠であるという認識の高まりがありました。
これまで、STEMは技術的な熟練に重点を置いていましたが、実際には、問題解決やイノベーションには芸術的かつ創造的な思考が不可欠であることが理解されるようになりました。

現代の労働市場では、創造性、批判的思考、コミュニケーション、コラボレーションといった「ソフトスキル」の需要が高まっており、純粋に技術的なSTEM教育の限界が浮き彫りになりました。
この限界を打破するために注目されたのが「芸術」の分野です。

芸術は、創造性、デザイン思考、イノベーション、そして問題への異なるアプローチを育み、STEMの分析的および論理的な側面を補完します。
芸術を統合することで、生徒は視覚的思考、共感、そして人間中心のアプローチをSTEM分野に取り入れることができます。例えば、工学における製品設計や、テクノロジーにおけるユーザーインターフェース設計など、芸術とデザインはSTEM分野に不可欠です。

STEAMにおける芸術は、単に視覚芸術や音楽、演劇、言語芸術を指すのではなく、人文科学や社会科学までを含む広範な分野として解釈されることが多いです。
この包括的な定義は、多様なスキルと視点を持つ、バランスの取れた人材育成を目指すものです。

STEAMのタイムラインと主要な提唱者

STEAMは2000年代後半から2010年代初頭にかけて登場しました。
STEMが2000年代初頭に広く普及したのに対し、STEAMは2011年頃から勢いを増し始めました。
STEMからSTEAMへの移行は、教育ニーズの進化に対する理解が深まるにつれて、徐々に進行したプロセスでした。

ジョーゲット・ヤックマンは、2006年頃にSTEAMのフレームワークを最初に提唱した主要な人物として知られています。
彼女は、創造的な応用と想像力豊かなデザインを重視することで、STEM教育を雇用主にとってより関連性の高いものにしようとしました。ヤックマンの功績は、芸術をSTEMに統合する必要性を明確に示したことにあります。

ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)も、2011年頃からSTEMからSTEAMへの移行を提唱した初期の、そして影響力のある機関の1つです。
RISDは、真のイノベーションを生み出すためには、デザインと創造性が教育の最前線にあるべきだと考え、芸術と科学の間の重要な「共生関係」を強調しました。RISDの提唱は、教育機関におけるSTEAM運動に大きな可視性と信頼性をもたらしました。

2012年には、米国国立研究評議会がSTEAMを正式に提案しました。この著名な国立機関による提案は、教育実践におけるSTEAMのより広範な受け入れと奨励を示す重要な一歩となりました。

年/期間主要な出来事/発展重要性
1990年代初頭NSFによるSMETの登場科学、数学、工学、技術の統合された教育アプローチへの初期の焦点
2001年頃NSFによるSTEMという頭字語の採用より統一的で覚えやすい用語の確立
2006年頃ジョーゲット・ヤックマンがSTEAMフレームワークを提唱雇用主にとってSTEMをより関連性の高いものにするために、創造的な応用と想像力豊かなデザインを重視
2011年頃ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)がSTEAMを提唱デザインと創造性がイノベーションに不可欠であり、教育の最前線にあるべきだという信念を強調。芸術と科学の間の重要な「共生関係」を強調
2012年米国国立研究評議会がSTEAMを提案STEAMを貴重な教育アプローチとしてより広く認識し、採用するための重要なステップ

世界におけるSTEAM

各国における採用と進化

STEAM教育は世界的に普及しており、米国、オーストラリア、中国、フランス、韓国、台湾、英国、カナダ、インド、フィンランドなどの国々でプログラムやイニシアチブが展開されています。
特定の用語や実施方法は異なる場合がありますが、その広範な普及は、より包括的で未来志向の教育アプローチの必要性に対する世界的な認識を反映しています。

各国では、それぞれの教育目標や文化的背景に合わせてSTEAMフレームワークを適応させています。
例えば、中国は幼い頃から数学と科学に重点を置いた厳格なアプローチを採用しており、フィンランドはカリキュラム全体に創造性と批判的思考を統合しています。ヨーロッパでは、STEM/STEAM教育とキャリアを促進するための様々なプロジェクトが実施されています。

ユネスコのような国際機関も、特に国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成において、STEM教育を世界的に推進する上で重要な役割を果たしています。

グローバルなSTEAM教育の新たなトレンド

グローバルなSTEAM教育においては、テクノロジーの統合が進んでおり、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、人工知能(AI)などが、より没入型でパーソナライズされた学習体験を生み出しています。
テクノロジーは、STEAM学習におけるエンゲージメントと理解を深めるための強力なツールとなっています。

プロジェクトベース学習(PBL)と学際的な学習は、STEAMにおける主要な教育的アプローチとして重視されており、生徒は現実世界の文脈で知識を応用し、共同作業を促進することができます。
これらのアプローチは、暗記学習から積極的な応用と概念のより深い理解へと焦点を移します

気候変動や不平等といった地球規模の課題に対処するために、STEAM教育を持続可能な開発のための教育(SESD)に焦点を当てる動きも高まっています。
STEAMは、次世代が複雑な地球規模の問題に取り組むための知識とスキルを身につけるための重要な枠組みとして認識されています。

日本におけるSTEAM

遅れてきた導入と急速な発展

日本におけるSTEAM教育への集中的な取り組みは、他の先進国と比較して比較的遅く、2018年から2019年頃に始まりました。日本の教育改革へのアプローチは独特であり、自国の歴史と状況を考慮に入れています。

文部科学省(MEXT)は、学際的な学習と問題解決能力の育成におけるSTEAMの可能性を認識し、その推進と支援を強化しています。政府の強力な支援は、STEAMを国家教育システムに統合するための重要な推進力となっています。

文部科学省はSTEAM教育を「各教科等の学習を相互に関連付け、汎用的な力として、より現実的な社会の課題を発見・解決していくための教科横断的な学習」と定義しており、「芸術」は美術や音楽といった芸術分野だけでなく、生活、経済、法律、政治、倫理といったリベラルアーツを含む広範な分野として捉えられています。
この広範な定義は、複雑な社会課題に対処するために、多様な分野の学習を結びつけるという日本の強調を反映しており、「Society 5.0」の概念と一致しています。

日本のSTEAM教育の特徴と取り組み

日本の伝統的な価値観である「ものづくり(Craftsmanship and Innovation)」の精神と「改善(Continuous Improvement)」の考え方は、STEAM教育の手作業、反復的、問題解決的な性質とよく合致しています。
これらの深く根付いた文化的価値観は、STEAM学習の原則に対する自然な親近感を生み出しています。

2020年に経済産業省(METI)によって開始された「STEAMライブラリー」のようなイニシアチブは、革新的で魅力的な学習リソースを提供することを目的としており、挑戦的な「ビッグクエスチョン」を中心に構成され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)と連携しています。
この政府主導の取り組みは、質の高いSTEAMリソースを提供し、探求型の学習を促進するというコミットメントを示しています。

2002年から実施されている「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」プログラムは、高度な科学技術教育を推進するための長期的な取り組みの例として挙げられ、特別な科学プロジェクト、大学や企業との連携、そして生徒のSTEM分野への関心を育むことに重点を置いています。
STEAMの正式な採用以前から存在していたSSHプログラムですが、実践的な研究や現実世界とのつながりを奨励するという点で、その多くの原則を体現しています。

教室におけるテクノロジーの統合も進んでおり、デジタルホワイトボード、オンラインリソース、バーチャルラボ、中学校から始まるプログラミング教育、ロボットコンテストなどが実施されています。政府によるSTEM学習を支援するための「未来の教室」構想は、この傾向をさらに強調しています。日本は、STEAM学習を強化し、デジタル未来に向けて生徒を準備するために、テクノロジーに積極的に投資し、活用しています。

企業や大学が、見学、メンターシップ、インターンシップを通じて、生徒に現実世界の学習体験を提供する取り組みも行われており、教育と産業界の間のギャップを埋めるのに役立っています。
これらの連携は、生徒に貴重な実践的経験と、STEAM分野における潜在的なキャリアパスへの洞察を提供します。例えば、株式会社SCREENホールディングスの「こころ未来学校」は、企業によるSTEAM教育ワークショップの好例です。

イニシアチブ名説明主な特徴/目標
文部科学省によるSTEAM教育の推進政府主導のSTEAMをカリキュラムに統合する取り組み学際的な学習と問題解決能力の育成
経済産業省によるSTEAMライブラリー革新的なSTEAMレッスンを集めたオンラインライブラリー魅力的な学習リソースの提供、探求型の学習の促進、SDGsとの連携
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)プログラム高度な科学技術教育を推進する長期的なプログラム特別な科学プロジェクト、大学や企業との連携、STEM分野への関心の育成
教室におけるテクノロジーの統合デジタルホワイトボード、オンラインリソース、バーチャルラボ、プログラミング、ロボット工学の活用生徒のエンゲージメントの強化、デジタル未来への準備
産業界と大学との連携見学、メンターシップ、インターンシップを通じた現実世界の学習体験の提供教育と産業界のギャップの解消、実践的な経験の提供
「こころ未来学校」イニシアチブ企業(株式会社SCREENホールディングス)によるSTEAM教育ワークショップ創造的思考と問題解決能力の育成

STEAMが重要な理由

批判的思考力と問題解決能力の育成

STEAM教育は、探求型の学習と実践的な活動を通じて、子どもたちが質問をする、多角的な視点から情報を分析する、問題を特定する、そして論理的かつ創造的な解決策を開発することを奨励します。これらのスキルは、学術的な環境と現実世界の両方における複雑な課題を乗り越えるために不可欠であり、適応性と回復力を育みます。STEAMのプロセスにおける失敗を学習の機会と捉えることは、生徒が粘り強く取り組み、アプローチを洗練させることを奨励します。間違いを学習の一部として受け入れることは、成長マインドセットを育み、実験への恐れを減らし、イノベーションにとって不可欠です。

創造性とイノベーションの育成

STEAMにおける芸術の統合は、生徒が既成概念にとらわれず考え、異なる視点を探求し、デザイン思考と芸術的表現をSTEMの課題に応用することで、独自の革新的な解決策を生み出すことを奨励します。創造性はもはや芸術だけの領域ではなく、あらゆる分野のイノベーションに不可欠なスキルであり、生徒は想像力と独創性を持って問題に取り組むことができます。

コラボレーションとコミュニケーション能力の向上

多くのSTEAM活動はグループプロジェクトを伴い、生徒は協力して作業し、アイデアを共有し、異なる視点に耳を傾け、タスクを分担し、効果的に調査結果を伝達する必要があります。これにより、不可欠なチームワークとコミュニケーション能力が発達します。
これらの「ソフトスキル」は、今日の協調的な職場環境やグローバル化した社会における効果的な参加にとってますます重要になっています。

将来のキャリア機会への準備

STEAM教育は、技術的な専門知識と創造的な問題解決能力の両方を求める、急速に進化するテクノロジー主導の雇用市場で成功するために必要な、学際的なスキルと知識を生徒に提供します。
多くの将来の仕事はまだ発明されていないと予測されており、多様なスキルセットを育成することで、STEAMは現在および将来の幅広いキャリアに向けて生徒を準備し、ダイナミックな世界における適応性と雇用可能性を高めます。